(
2022/02/28)
tkrv
今牛若狭
「別れよ」
「え?」
久しぶりに呼び出されたかと思えば、彼氏にいきなりフラれた。
久しぶりに呼び出されたかと思えば、彼氏にいきなりフラれた。
開いた口が塞がらない私をよそに、彼氏……いや元カレ? はポケットに手をつっこんだ。
「今後、オレを見かけても絶対話しかけんなよ」
まばたきを繰り返している私をよそに、串を咥えたまま器用に話す。ワカくんは言いたいことを言うだけ言って、踵を返した。
「じゃ」
「今後、オレを見かけても絶対話しかけんなよ」
まばたきを繰り返している私をよそに、串を咥えたまま器用に話す。ワカくんは言いたいことを言うだけ言って、踵を返した。
「じゃ」
「ま、待って……」
羽織っていたジャケットの袖を掴もうとしたが掴み損ねた。スローモーションで揺れる袖を見つめながら、おなかの底から出せるだけの声を上げた。
「待ってよ、ワカくん!」
それでも全く動じない派手髪野郎に苛立って、大きな舌打ちを鳴らした。
「若狭!」
大げさなぐらい肩を震わせたワカくんがゆっくりと振り返る。
羽織っていたジャケットの袖を掴もうとしたが掴み損ねた。スローモーションで揺れる袖を見つめながら、おなかの底から出せるだけの声を上げた。
「待ってよ、ワカくん!」
それでも全く動じない派手髪野郎に苛立って、大きな舌打ちを鳴らした。
「若狭!」
大げさなぐらい肩を震わせたワカくんがゆっくりと振り返る。
まだ私の言葉が彼に届いているとわかったからだろうか。驚いた顔のワカくんに、安堵の息がこぼれた。
「……何気に、初めて名前で呼んだね。十年以上、一緒に居たのに」
折れるつもりが無いと気づいたのか、後頭部を乱暴に掻きながら私の正面に立った。
「……何気に、初めて名前で呼んだね。十年以上、一緒に居たのに」
折れるつもりが無いと気づいたのか、後頭部を乱暴に掻きながら私の正面に立った。
私を見下ろすワカくんは猫背でもやっぱり頭一つ分ぐらい背が高い。威圧感と言うか、オーラがあるから見た目以上に圧を感じる。
私がどう切り出そうか悩んでいる間、ワカくんは黙って私の言葉を待ってくれていた。マイペースのクセに、そういうところだけ気が利くからモテるんだよ。
「別れるのは……まぁ、いいんだけど……」
私がどう切り出そうか悩んでいる間、ワカくんは黙って私の言葉を待ってくれていた。マイペースのクセに、そういうところだけ気が利くからモテるんだよ。
「別れるのは……まぁ、いいんだけど……」
「いいのかよ」
「なんていうか、遠ざけられてる気がするんだよね」
「……」
女の勘というやつだろうか。
女の勘というやつだろうか。
顔を上げるとあからさまに視線を逸らされた。
「好きな女が出来た、とか言われる方がまだマシなんですけど、そのあたりどうですか?」
「好きな女が出来た、とか言われる方がまだマシなんですけど、そのあたりどうですか?」
「……」
「無言は肯定と捉えちゃうけど?」
「……」
根負けしたのか、ワカくんは口をへの字に曲げて、咥えていた串を手で持った。
「この前、千壽が負けた話はしただろ?」
根負けしたのか、ワカくんは口をへの字に曲げて、咥えていた串を手で持った。
「この前、千壽が負けた話はしただろ?」
「う、うん」
「引き抜きがあった。オレとベンケイの」
「それがなんで別れる話になるの……?」
顔をゆがめていたワカくんから表情が消える。そして一つ息を吐きだし、まっすぐと私を見つめた。
「今度ばっかはやべぇんだワ」
顔をゆがめていたワカくんから表情が消える。そして一つ息を吐きだし、まっすぐと私を見つめた。
「今度ばっかはやべぇんだワ」
「それ、梵の時も言ってたじゃん」
「揚げ足取ンな。梵を潰したチームの引き抜きだっつーの」
首をかしげる私を小突く。少し肩の力を抜いてくれたと思ったけれど、またすぐに剣幕な表情になった。
「……あれはもう、チームなんて生易しいモンじゃねぇな」
小突いた手を肩に乗せて遠い目をするワカくんは、悲しいようにも、悔やんでいるようにも見えた。
「だからオマエを巻き込めねぇ」
肩を掴んでいたに力が入る。引き離そうとしたんだろうけど、私がつぶやくほうが早かった。
「……は? 今更すぎない?」
目の前のワカくんがぎょっと私を見下ろす。自分でも想像以上に低い声が出た。
首をかしげる私を小突く。少し肩の力を抜いてくれたと思ったけれど、またすぐに剣幕な表情になった。
「……あれはもう、チームなんて生易しいモンじゃねぇな」
小突いた手を肩に乗せて遠い目をするワカくんは、悲しいようにも、悔やんでいるようにも見えた。
「だからオマエを巻き込めねぇ」
肩を掴んでいたに力が入る。引き離そうとしたんだろうけど、私がつぶやくほうが早かった。
「……は? 今更すぎない?」
目の前のワカくんがぎょっと私を見下ろす。自分でも想像以上に低い声が出た。
なんて自分勝手なんだこの男は! と苛立ちは覚えたものの、頭はすごく冴えていた。
「白豹って言われてた頃から一緒に居て、こっちは既に散々な目にあってるんですけど?」
肩を掴まれていた手はするりと落ちる。
「白豹って言われてた頃から一緒に居て、こっちは既に散々な目にあってるんですけど?」
肩を掴まれていた手はするりと落ちる。
焼き鳥の串を持っている手を掴み、私はワカくんに詰め寄った。振りほどくなんて簡単にできるはずなのに、彼は目を丸くしているだけだった。
「今更そんな理由で別れるとか言われて『はい、そ〜ですか』って納得すると思った?
「今更そんな理由で別れるとか言われて『はい、そ〜ですか』って納得すると思った?
別れたいなら私を納得させてみてよ。自分が仕留めた獲物なんだから、最後まで責任持ちなさいよ」
呆気に取られていたワカくんが無表情に戻る。肩で息をする私を無言で見下ろしていた。
言うだけ言ったし、これで別れるって言われたらそこまでだなあ。
急に自信が無くなって、ワカくんの顔を直視できなくなった。うつむいて目を閉じれば、瞼の裏で中学生だったワカくんが獰猛な目で笑っていた。
呆気に取られていたワカくんが無表情に戻る。肩で息をする私を無言で見下ろしていた。
言うだけ言ったし、これで別れるって言われたらそこまでだなあ。
急に自信が無くなって、ワカくんの顔を直視できなくなった。うつむいて目を閉じれば、瞼の裏で中学生だったワカくんが獰猛な目で笑っていた。
そういえば、いつからこんなけだるそうな男になったんだっけ。
ぼんやりしていると、ワカくんの腕を掴んでいた手が引き寄せられた。掴んでいたはずなのにいつの間にかワカくんに掴まれていて、「あ」と声を出す間も無くワカくんに抱きしめられていた。
「どこでそんな口説き文句覚えて来んだよ」
逃がせねぇだろ。
ぼんやりしていると、ワカくんの腕を掴んでいた手が引き寄せられた。掴んでいたはずなのにいつの間にかワカくんに掴まれていて、「あ」と声を出す間も無くワカくんに抱きしめられていた。
「どこでそんな口説き文句覚えて来んだよ」
逃がせねぇだろ。
肩口でぽつりとつぶやかれた言葉を、私は聞き逃さなかった。
ワカくんの体温を感じて、自然と頬がゆるむ。返事の代わりに私は背中に腕を回した。
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