諸泉尊奈門

「そんなも〜ん！　待つのじゃ！　逃げるでない！」
「姫、お戯れを……！」
「戯れでない！　早うわらわを妻に迎えよ！」

「あ〜ぁ、今日もやってんねぇ」
「組頭ァ！　見てないで助けてくださいよぉ！」
「やだ」
「雑渡よ、邪魔立てするでないぞ！」
「心得ております、姫」
「組頭ァ〜〜〜！」

「姫と尊奈門、お似合いだと思うけど」
「ご冗談を！」
「え？　五条？」
「そうじゃな〜〜〜い！」
「冗談はさておき、私は本当に思ってるけどね」

「組頭！　なんで毎回毎回止めてくれないんですか！？」
「良いじゃない、このまま姫が余り物になったら妻にしちゃえば。殿に進言してあげるよ」
「そんなわけないでしょう！　姫はいつかどこかのお城に嫁がれます。……それに」
「それに？」
「わ、私と姫では身分が違いすぎます！」
「へぇ、身分が一緒だったら良いんだ？」
「それは、その……」

「私のことなんか忘れて、幸せな家族を作ってへらへら笑って生きますよ。……あの人なら」

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「今、なん、と……？」
「わらわは城を去ると言うた」
「ど、どちらへ？」
「ツキヨタケ城」
「ツキヨタケと言えばっ……！」
「わらわの輿入れを機に同盟を結ぶそうじゃ」
「こし、入れ、ですか」
「今まですまなかった、尊奈門」
「姫……」
「わらわの戯れに付き合わせてしもうて」

「良き相手を見つけて幸せになれ。尊奈門」

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「あの男、裏切りよったわ……」
「（脱兎さながらに走っておった姿からして、急所を外したか。悪運の強い男よ）」
「まあよい。父上になんとしても証拠を渡さねば……」

「（とは言え、血を流しすぎた。追ってから逃れるのに手間どってしもうた）」

「姫！」
「そ、尊奈門！？　何故此処に！？」
「ツキヨタケの不審な動きはこちらでも感知しておりましたゆえ、私がお迎えに参りました」
「そ、そうか……」
「お怪我は？」
「刺し違えてでも殺すつもりじゃったが、あやつは逃げよった……い゙っ！」
「無理に動かさないでください」
「……」
「姫？」
「わらわを捨てて行け、尊奈門」
「なっ……！？」
「なんなら一思いに殺せ」
「何を言ってるんですか！」
「尊奈門」
「ほら、早く掴まって……」
「尊奈門」
「絶対に、絶対に置いていきませんから！」
「尊奈門！　……よく見よ。どう見ても助からんだろうが」

「わらわよりも、これを」
「ひ、ひめ」
「ツキヨタケの密書、必ず父上に届けよ」

「頼んだぞ、尊奈門」
「嫌です、姫！　私は……私は、貴女様のことが……！」
「その先は、言うでない」

「いつか尊奈門には良きおなごが出来たときまで、それは言うでない」
「ですが、姫。私は……」
「死にゆく者に未練を残させるな、尊奈門」

「最期に目に映るのが好いたおのこであるだけで……わらわは満足じゃ」