忍者ブログ
 dc

諸伏高明夢「初恋は終わらない」
同ヒロイン小ネタ
本編後の話×4本






『大奥』を読んだ話

「何読んでるんですか?」
「大奥です。今無料開放してるらしくて」
「映画は見たことあるんですけど、原作読んだことないなぁって」

「面白いですか?」
「面白いです、気づいたら半分以上読んでました」
「その割には随分気難しい顔をしてますけど」

「……ほっんと、目敏いですよね」
「ようやく顔を上げてくれましたね」
「コウメイの罠……」
「なんとでも」

「何ていうか、複雑だな〜って思ってただけです」

「体裁のためとは言え、自分の弟子が好きな人と寝るんですよ? しかも弟子の子供どころか、それ以外の男の子供も出来るし」
「私だったら、耐えられない」
「高明さんに色目使ってるだけでも私は嫉妬してるのに」

「……」

「え、なんで黙るんですか? お、重かったですか?」
「いえ、そうではなく……」
「じゃあ視線逸らすの辞めてもらえます?」

「いや、その……」
「見せられないと言うか……」

「高明さん、顔真っ赤ですよ」
「君のせいですよ」

「え!?」

「達英さん、たまにとんでもない飛び道具投げてきますよね」
「とび……?……あ」
「君も真っ赤ですね、顔」
「だ、誰のせいだと……!」
「その言葉、そっくりそのまま返します」
「む、む〜!」

「でも……僕だけが嫉妬しているわけではないんですね」

「あ、当たり前ですよ!」
「映画見た時は『ふーん』としか思わなかったのに、今はキャラにめちゃくちゃ共感しちゃったんですから」

「高明さんのせいですからね!」
「私、自分で思っていたよりも随分欲深かったんで!」

「奇遇ですね、僕もですよ」
「君が思っているよりもずっと、嫉妬深いし、執念深い」





洗濯物の話

「高明さん? どうしました?」
「眉間に皺、寄ってますよ」

「男の前で下着を片付けるなんて、君は私のことをなんだと思ってるんですか」
「……え?」

「あ……わーーー!!!! めちゃくちゃ無意識でした! すみません!」

「相変わらず君は聖人君子のように思っているかもしれませんけど、私も男なのですが」
「いや、そんなつもりじゃなくて!」

「最近高明さんと家で顔を合わせているので、なんていうか……」
「一緒に居るのが当たり前すぎて、つい空気みたいに思ってました」

「あっ! いや! いい意味で、ですからね!!! 高明さんの存在が薄いとかそう言う意味ではないので!!!」
「……はぁ」
「な、なんでため息?」

「飛び道具」
「え?」
「なんでもないです、独り言です」

「それ、早く片付けて来てください」
「は、はい……!」

「(早いこと同棲にこぎつける算段をつけないとな)」





無配の続き 由衣ちゃんと買い出し

「さっきから視線を凄い感じるのよね」
「由衣ちゃん美人だからね」
「そうじゃなくて、席に座ってる時!」
「座ってる時?」
「殺意とかじゃないんだけど、なんか見守るような視線? 的な?」
「なにそれ?」
「分かんないから言ってるんじゃない」

「んー……由衣ちゃんと大和先輩が焦れったかったとか?」
「高明さんが言ってたけど、間接チューしてたんでしょ?」

「そ、そんなんじゃないもん!」
「か、敢ちゃんが、ペットボトルを奪っただけで……」

「とにかく違うから! 達英ちゃんが戻ってきてからもずっと視線感じてたし!」
「そうなんだ……?」
「気づいてないの?」
「ライブで視線とか気にしてたらしんどくなるし、気にしてない」
「慣れてるのね」
「まぁね」

「話変わるけど、本当に最後まで見なくて良かったの?」
「どう足掻いてもシフトがねぇ……」
「シフトに余裕があって、もし一人で来てたら?」
「うーん……それでもアンコール前には帰るかなぁ……」
「それでも帰るの!?」
「うん。なんせ泊まったら高いんだよね」

「メッセとかマリンスタジアムで催しがあるとさ、この辺のホテルの値段が一気に上がるんだよ」
「さっき駅までの距離にあったビジネスホテルとかも、一泊三万とかになるんだよね……」

「さ、三万!? ビジネスホテルで!?」
「そう。普通のビジネスホテルで。いつもなら一万切ってるようなところが、三万円也〜って」
「足元見られすぎじゃない!?」
「見られてるよねー……。だから泊まるのはなるべく控えたい」
「そうなの……」
「ちなみに先週値段見たら、五万超えてたよ」
「……恐ろしいわね」

「だから踏ん切りはついてるし、其処まで残念でもないよ」
「なんなら由衣ちゃんたちと来れたってことの方が嬉しいまである」

「もー! おだてても何も奢らないからね!」
「本音だもーん! はい、ドリンクメニュー」
「ありがとう」
「次、何飲む? そろそろ食べ物もいるかなぁ?」
「この限定メニュー美味しそうじゃない?」
「フェス飯は数に限りがあるからね、この辺買っちゃおうか」
「そうね! 食べきれなかったらあの二人に食べさせましょ」
「さんせー! 高明さんも大和先輩も結構食べるもんね」





高明さんが思う「特別」の話

 食欲をそそる匂いで、目が覚めた。ベーコン焼けた匂いが口内を刺激する。コーヒーの香ばしい匂いに、意識を浮上せざるを得なかった。
「……まただな」
 起きたばかりなのに、朝食の準備なんてしているはずもない。犯人の心当たりは、ただ一人。  私は顔を顰め、ため息をひとつ吐き出した。布団を蹴り上げると、のそのそと寝室を後にした。

 リビングに向かうと、案の定キッチンで人影が動いていた。
「高明さん……」
「おはようございます、達英さん」
「おはようございます」
 振り返った人影こと高明さんは、視界に私を捕らえると笑みを深くした。こんな柔らかい表情を見せられると、怒る気も失せてしまう。
「朝は来ないでくださいって言ってるじゃないですかぁ……」
 あくびをこらえながら言うと、ガスを切った高明さんが近づく。
「眠そうですね」
「昨日は遅番だったので」
 目尻に溜まった生理的な涙を拭おうと、高明さんが手を伸ばした。
「って、話を逸らさないでください!」
 我に返った私は、一歩後退った。危なかった。また高明さんを受け入れそうになっていた。残念そうな顔をしているが、この人は確信犯なのである。今日と言う今日こそはびしっと伝えておかねばなるまい。
「朝は来ないでくださいっていつも言ってますよね?!」
 高明さんは意地悪だ。いくら合鍵を渡しているとは言え、来ないでと言っている時間にばかりやってくるのだ。このやり取りも、何回目か分からない。
 口を尖らせていると、高明さんは目を細めて小さく微笑んだ。
「そうですね、寝起きで毛先があちこちに跳ねていますね」
「パーマをかけてるからぼわぼわなんですってば!」
 逃げようとしたが結局距離を詰められる。上機嫌で高明さんはあちこちに向いた毛先を指先でくるくると弄びだした。抵抗することを諦め、されるがままになっていた。
「てか、高明さんだってそんなに朝強くないですよね? なんでわざわざ来るんです?」
「それは勿論、貴女のこの姿を見るためですよ」
 そう言いながら、高明さんは毛先をくるくると指に絡める。間を空けずに返事が返ってきたことによって、私は眉間のしわを深くした。
「……趣味悪」
「言うようになりましたね」
 髪を弄んでいた指先が、するりと頬を撫でる。若干低くなった声色にぎくりと肩が跳ねるけれども、自身の主張はちゃんとしておきたかった。
「だって、こんな寝起き見て面白いとかあります?」
「面白くはありませんが……特別感はあります」
「特別感?」
 何が特別なのだろうか。首をかしげていると、とろけるような視線を向けられる。自分の家なのに居心地の悪さを感じた。
「いつものように身だしなみを整えた達英さんの無防備な姿は、知っている人も少ないでしょうし」
 ちらりと私を見やり、高明さんは口の端をつり上げる。
「恋人の特権と言うやつですね」
 なんじゃそりゃあ。
 低血圧の私には朝から高明さんを相手にするのは正直疲れる。起きたばかりなのに頭が重く感じる。私はじとりと目を細め、口を開いた。 「由衣ちゃんも何度も見てますけどね」
 続けて「なんなら由衣ちゃんの家でこの状態になってますし」と言うと、高明さんは虚を突かれたように目を丸くした。
「……やはり、由衣ちゃんは強敵ですね」
 油断していたのか、高明さんは昔の呼び方をぽろりとこぼした。懐かしさにひたりたい気持ちはあったが、真剣そのもので策をめぐらす姿にため息が漏れ出た。
「由衣ちゃんと張り合わないでくださいよ……」
 かくいう由衣ちゃんも「高明くんには負けないんだから!」と学生の頃のような発言をしているのだが、イマイチよく分からない。大和先輩といい、高明さんにはライバルがたくさん居るらしい。もはや司馬懿としてライバルに立候補するのもおこがましいほとである。

 私をそっちのけで悶々と思案する高明さんに、ぽつりと呟いた。
「流石に大和先輩には見せたこと無いから安心してください」
「見せてたら貴女、しばらく部屋から出られませんよ」
 間髪入れず、返事が返ってくる。高明さんは組んでいた腕を即座に解き、鋭い目力で私を見やった。
「は、はぁ……? 仕事行けなくなるから大変ですね?」
 首をかしげていると、高明さんが大きなため息を吐き出した。いや、ため息をつきたいのは私の方なのだが。
 高明さんが何に重きを置いているのか分からない。どうしてこんなどうでもいい話で一人盛り上がっているのやら。起き抜けの私の頭は、考えることをやめていた。
「頭を使ったので、お腹が減りました」
「ほぼ出来ているので、もう少し待ってください」
「じゃあ、その間に顔洗ってきます」
「ええ、いってらっしゃい」
 慈愛の籠もった瞳で微笑まれてたじろぐ。視線を彷徨わせながら、私は洗面台へと足を進めた。

 いってらっしゃい、か。
 鏡に映る顔は茹でダコのようだった。悔しいけど、今のはときめいた。
 休みとは言え、朝から色んな意味で疲れた。熱くなった顔を冷まそうと、私は蛇口をひねった。

※本編でも少し出しましたが、今は達英ちゃんを慮って、上原さん⇔諸伏警部呼びにしていますが、子供の頃は由衣ちゃん⇔高明くん呼びだった設定です。
ちなみに主人公と大和先輩は鈍感兄妹とキャラデザしています。
PR
prev  home  next
プロフィール

HN:
タナカユキ
性別:
非公開
P R

忍者ブログ [PR]
  (design by 夜井)