諸伏高明夢「初恋は終わらない」
同ヒロイン小ネタ
本編後の話×3本
同ヒロイン小ネタ
本編後の話×3本
四人で中国パビリオンに入る話
「わ〜! ドキドキする!」
「達英ちゃん、中に何が展示されてるとか知らないの?」
「見ないようにしてたからあんまり……。とりあえず展示物がレプリカってことは知ってる」
「珍しいわね、調べてそうなのに」
「だって入れなかったら悔しいもん……」
「そういうことか」
「結構並ぶのね」
「大きさがパビリオンの中でも最大級らしいですよ」
「諸伏くんも詳しいのね」
「まぁ、一応調べていますので……」
「(達英ちゃんのためってことかー)」
「あの漢字はなんなんだ?」
「大和先輩! よくぞ聞いてくれました!」
「あー……やっぱナシで」
「まずこの建物ですが、簡牘をモチーフにしてるんだと思いますよ!」
「聞いちゃいねぇ」
「始まったわ」
「始まりましたね」
「簡牘は竹簡と木牘のことなんですけど、漢代に紙が発明されるまでは竹や木に記録や伝達を書いていました。細く切った竹や木を糸でまとめて巻物にしていたんです。これはその一部ですね」
「あの文字は篆書と言って始皇帝の時代に統一された文字で、こっちは甲骨文字と言ってもっと前に使われていた文字です。ちょっと絵文字っぽくないですか?」
「月と日は絵のまんまだけど、なんとなく分かるわね」
「あれが漢字の始まりです!」
「ちなみに甲骨文字と言うのは占いに使っていた牛の肩甲骨や亀の甲羅から見つかったのでそう呼ばれています。墨や漆は消えることがあるんですが、彫ってあるからこそ残ってるんですね〜。ロマンありますよね〜」
「と、まぁ此処までは学校でも習う話ですが、覚えてました?」
「何年前の話だと思ってんだよ、んなもん殆ど覚えてるわけねーだろ」
「ぴえ……」
「せ、説明は分かりやすかったわよ! ね、敢ちゃん?」
「まぁ……確かに」
「達英さん、気を取り直して肝心な文章の方は如何ですか?」
「……そういえば、文字の話でしたね」
「基本は偉人たちの教えが多いですね〜。論語が多いかな?」
「パッと見て読めないものもあるので、この辺りは高明さんの方が強いかもです」
「私は達英さんのように教わったわけではないので……確かに分からないものもありますね」
「ああ、でも確実に分かるものが一つあります」
「確実? 孔明の言葉でもあんのか?」
「ええ、まさに」
「……まじかよ」
「わ、ほんとだー! あの上の方の小さい文です! 高明さん気づくの早いですね!」
「しかも誡子書だ! すごーい!」
※コウメイは論語や易経、淮南子なんかも読めるんだろうなーと思っていますが。
入口の文章の中には割と最近の人の言葉もあるので、敢えて「パッと見て分からない」と言わせています。
「やっと入れた〜! 涼しい!」
「達英さん?」
「芝、固まったぞ」
「大丈夫?」
「か、かそん……? 本気?」
「あ、待って! 達英ちゃん!」
「こっちは卜占の肩甲骨! あー、流石に字は読めないかー」
「え、何これディスプレイをタッチしたら解説出てくるんだけど!? 360度回せる! 凄い!」
「達英ちゃん、何語話してるの?」
「これはさっきの甲骨文字ですね」
「あー、外で話してたやつ? こんな形の中に彫ってあるのね。教科書で見たことがあるような気がしてきたわ」
「これは牛の肩甲骨だとよ」
「隣の器は?」
「達英さんが張り付いているこちらは……青銅器のようですね」
「……ふふ」
「上原さん、何か?」
「いや、楽しそうだな―って」
「やっぱコウメイもそっち側だな」
「……ええ、まぁ。それなりに」
「(達英ちゃんが楽しそうだからテンション上がっちゃっただけじゃないのね)」
「達英ちゃん、それは?」
「これはね、何尊って言うの!」
「かそん?」
「何さんの作った尊って意味で、尊は青銅器の種類」
「何が凄いって、何尊は紀元前十一世紀ぐらいのものなんだけど、彫られた銘文の中に『中国』って言葉が出てくるの! 三千年前には中国っていう概念があったかもしれないんだよね」
「何尊は他にも周が殷を倒したことが彫られていて、嘘か本当か怪しかった『史記』に残る歴史が作り話じゃないことを証明した青銅器の一つでもあるの!」
「大学の授業に出てきてから何度も本で見た青銅器! レプリカだとしてもこうやって形を見られるだけで熱い!」
「そ、そう……」
「で、隣は……? わ、わー! 睡虎地の秦簡!?」
「しん……なに?」
「始皇帝の時代の竹簡で、どんな政治をしていたのかが分かる貴重な史料なの! 秦代の竹簡だから秦簡」
「なるほど」
「ちなみに、竹簡は長さによって内容が異なるんだよ! どんな内容とか誰からの連絡か、一目でだいたい分かるっていう」
「楽しそうですね」
「はい! レプリカだとしてもテンション上がります! こういうのを見て、古代史って面白いんだよーって知ってもらえたら嬉しいですもん!」
「ではあれは?」
「まっ……!? 三星堆!?」
「見ただけで分かるのね」
「見ただけで分かるぐらい、作風が違うの! そもそも文化の源流が違うから!」
「芝、さっきから周りも解説聞いてることに気づいてるか?」
「気づいていたらこんな饒舌に話してませんよ」
「さっきまで暑くてバテてた子とは思えないぐらい元気になって……」
「ガキだろ、ありゃあ」
「楽しかったですか?」
「めちゃくちゃ楽しかったです! シルクロードも最後に少しだけ浴びれましたし」
「飛天ですね」
「そうなんです! 天井に飛天なんて粋すぎます!」
「ひてん?」
「達英さんは今シルクロードに夢中でして。飛天は莫高窟と言うところに描かれた天女です」
「ああ、月の砂んところの天井か」
「それです」
「改めて、三人とも長い時間並んでもらってありがとうございました」
「私たちも楽しかったわよ! 達英ちゃんが色々話してくれたから」
「まぁ、何も知らずにぼーっと見てるよりは面白かったな」
「そう言ってもらえるのが一番嬉しいです!」
「高明さんは? 楽しかったですか?」
「ええ、勿論」
「無邪気にはしゃぐ君を見るのも含めて、ね」
「……恥ずかしい」
「あ、此処にも漢文!」
「出口側は漢詩が多いですね〜」
「え! わ! 唐詩だけじゃなくて曹操もある!」
「……」
「(達英ちゃん、最後の最後に地雷を踏まないで……!)」
「(コウメイの顔、よく見ろ馬鹿!)」
「ひ〜、曹植も! ってことは曹丕もあったりし……ないか」
「三国志からも結構出典ありますね、高明さん!」
「……高明さん?」
「孔明を見つけた時よりも嬉しそうですね」
「んんん?」
「やっぱり僕より魏ですか、そうですか」
「えぇ〜!? むくれないで下さいよ、優劣なんてないですから!」
「……いや、やっぱあるかも?」
「達英ちゃん!」
「余計なこと言うな!」
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