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2021/12/17)
tkrv
ココ(梵天軸)とイヌピーの話をするだけ
駅の北口。治安が悪くて有名な場所だ。
私の家は南口だが、急ぎでコンビニに行く用事があったので北口すぐのコンビニへと向かった。
駅前はさすがにそこまで治安が悪いことはない……と今日までは思っていた。
「大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます」
コンビニの出入り口でまさかのヤバそうな人に絡まれた。
そのまま路地裏へと引きずり込まれそうになったところを、目の前の男性に助けてもらった。
銀色の長い髪に、右側を刈り上げたアシンメトリーの髪型。挙句、剃りこみが三本入っている。
つりあがった目の虹彩は真っ黒で、眉や髪の色素が薄い分、際立っていた。
さっきのチンピラっぽいのとは違い、いかつさの中に上品さが垣間見えるこそ、カタギかどうか疑わしかった。
「この辺、治安悪いんだろ?」
「この辺、治安悪いんだろ?」
「コンビニぐらいなら大丈夫かなって……。駅前ですし」
「その結果、これだけどな」
「軽率な判断だったと猛省しております」
「おう。次はまじでねぇからな」
助けてもらったうえに駅前まで送ってもらったので、頭が上がらない。
助けてもらったうえに駅前まで送ってもらったので、頭が上がらない。
彼が北口の方に踵を返した。
え、やっぱりそっちに行くわけ!? と、思ったけれど、ぐっとこらえて深くお辞儀をした。
彼が私の真横を通り過ぎるか過ぎないかの境で、ぴたりと足が止まった。
「アイツ、元気か?」
彼が私の真横を通り過ぎるか過ぎないかの境で、ぴたりと足が止まった。
「アイツ、元気か?」
「え?」
顔を上げて、男性の方を見る。男性は私を見ることはなく、ただ遠くを見つめてポケットに手を入れていた。
「やっぱ、なんでもねぇワ」
視線だけが私に向けられる。ぺろりと舌を出すと、彼はまた歩きだした。
顔を上げて、男性の方を見る。男性は私を見ることはなく、ただ遠くを見つめてポケットに手を入れていた。
「やっぱ、なんでもねぇワ」
視線だけが私に向けられる。ぺろりと舌を出すと、彼はまた歩きだした。
この人が言っているであろう「アイツ」から聞いていた話とは違うけれど、「もしかして」と胸がざわついた。
「今、バイク屋やってます」
完全に通り過ぎたはずの足が止まる。
「今、バイク屋やってます」
完全に通り過ぎたはずの足が止まる。
私は振り返ると、静かに男性の後ろ姿を射抜いた。
「彼は昔よりずいぶん笑うようになりました」
「彼は昔よりずいぶん笑うようになりました」
「……」
「表情も豊かになったし、優しくなりました」
「ハッ、誰のこと言ってんだか」
ごまかす男性の背中に、声を荒げる。
「私、貴方のことを彼からたくさん聞きました!」
聞いていた黒髪とは違ったし、ふわふわの髪でもなかったし、アシンメトリーとつり目しかあってなかったけれど。
ごまかす男性の背中に、声を荒げる。
「私、貴方のことを彼からたくさん聞きました!」
聞いていた黒髪とは違ったし、ふわふわの髪でもなかったし、アシンメトリーとつり目しかあってなかったけれど。
多分、彼は、私が噂を耳にしていた男に間違いなかった。
「彼は、イヌピーは、今も貴方のことを友だと……」
「彼は、イヌピーは、今も貴方のことを友だと……」
「やめろ」
地を這うような低い声に肩が震える。
地を這うような低い声に肩が震える。
うつむいていた顔を上げると、彼はこちらを向いていた。
「そんな話が聞きたいわけじゃねぇ」
終電も過ぎた、だれも居ない駅。
「そんな話が聞きたいわけじゃねぇ」
終電も過ぎた、だれも居ない駅。
2mほど間を開けて二人、見つめ合っていた。
「ま、元気なら何よりだワ。
「ま、元気なら何よりだワ。
悪かったな、巻き込んで」
どんな表情をしているのかは、街灯で逆光になっていてわからなかった。
どんな表情をしているのかは、街灯で逆光になっていてわからなかった。
わかるのは、この人もイヌピーを忘れていないと言うことだけ。
まるで相思相愛みたいで、胃がキリキリする。
何も言わず、男は背を向けて北口の闇へと消えた。
何も言わず、男は背を向けて北口の闇へと消えた。
見えなくなるまで背中を見つめていたけれど、男が振り返ることはなかった。
「ずるい」
あの人は十年以上、彼の心に住み続けている。
「ずるい」
あの人は十年以上、彼の心に住み続けている。
火事で亡くなったと言うお姉さんを好いていた幼馴染。
互いに贖罪を感じ、青春時代を過ごした男。
「あんなんに勝てるわけないじゃん……」
私じゃイヌピーの心を埋めることなんてできないんだよ。
「あんなんに勝てるわけないじゃん……」
私じゃイヌピーの心を埋めることなんてできないんだよ。
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