白ひげの娘とサボ(※映画ネタバレ)
……本当についてない。
一心不乱に走りながら心の中でこうなった元凶を殴り飛ばした。
私は今、追われている。
トラファルガー・ローの口車に乗せられてアイツに付き合う事にしたのが運の尽きだった。
ヤツはなんだかヤバイ事に私を巻き込んだのだ。何、どういう事?ダグラス・バレットなんて聞いてないんだけど。
地下にもぐりこんだまではよかったが襲撃され、見事にはぐれてしまったわけだが、アイツと一緒に立ち入り禁止区域に居たのだから仲間と思われるのは当然で。
現在、千両道化のバギー率いる海賊達に追われているわけだ。
一人ひとりはザコと言っても問題がない海賊が多いのだが、如何せん数が多く、なかなか撒ききれない。
不意打ちだったのもあり、思ったより深手を負わされ、いつも同じように逃げれずイライラが増す。
こんな事なら話に乗るんじゃなかった!安易にアイツの計画を快諾した自分を今更ながら恨みたい。
……とはいえアイツに「借りがあるだろ?」と言われてしまえばそこまでで、従わざるを得ないのだが。
それぐらい、マリンフォードでルフィさんを助けてくれた事は私達にとってはとても大きな事だった。
「居たぞ!」
酒焼けした男の声と共に足音が近づいてくる。この先は人ごみでそう簡単に身動きはとれないだろう。手前の細い路地に入りこんだが、一本道ゆえに追いつかれたら終わりだ。
ひとまずあらかた潰してから逃げるか。
踵を返して追手の方を向き直ろうとしたが、突然後ろから腕を掴まれ、体勢を崩す。
背後を取られた事にすら気付かないぐらいのやり手があの海賊団に居たのだろうか。
咄嗟に反対の腕を振り上げて抵抗しようとしたが、聞きなれた声に一瞬動きが鈍った。
「俺だよ」
軽い身のこなしで私を壁においやった本人は静かな声色で言う。
シルクハットのつばからちらりと覗いた大きな目、ウェーブがかった金髪、そして左目から頬にかけて残る大きな火傷あと。
ドレスローザで会った以来の再会に「サボさん!」と声をあげそうになったがサボさんの手に塞がれた。
「しっ」
近づいてくる足音に目を向けるが、それより先に近づいてきたサボさんの顔のせいで何も見えない。
驚きのあまり声をあげそうになったが、生憎塞がれていたので声が漏れる事もない。
「お前ら、こんなところで何してんだ?」
「……おいおい、この状況で聞くのは野暮ってもんだろ?」
追ってきたであろう海賊へ顔を傾けたサボさんは腕を掴んでいた手を腰に回して引き寄せた。
絶妙な角度で私の顔が追手に見える事は無さそうだが、この体勢はあまりに刺激が強すぎる。男手で育てられて恥じらいというモノが無かった私にようやくそういう自我が現れただけ喜ばしい事なのだが、なんにせよ早急に離れてほしい。
壁においやられるだけでなく、引き寄せられる事でより密着した身体。何より相手があの天然たらしのサボさんだと言う事が何よりも私を混乱させた。
わかっている、サボさんは私を助けるために一芝居打ってくれているんだと。わかっているが、脳は処理しきれていない。
この際、足を割られそうになったのは私の思い違いだと信じたい。
「怪我した女が一人で此処に通らなかったか?」
「さぁな?俺たちは随分前から此処に居るが誰も通っちゃいねぇよ」
サボさんはそう言うと艶かしげに腰を一撫でし、私の両足の間に滑り込ませた膝を軽く押した。勘違いではなかった、もう勘弁して。
「はっ!こんなまっ昼間っからお盛んなこった!」
げへへと下品な声をあげて去る海賊達が遠ざかるとサボさんがようやく口を塞いでいた手を離してくれた。
「……行ったか」
サボさんが私に向き直る。
「お前、なんでこんなとこで追われてんだ?」
「ちょっと潜入するの手伝ってって言われてしまいまして……」
ソイツに借りがあるので断れずについて来たら巻き込まれました。
素直に言い、おそるおそるサボさんの方を見上げると案の定少し怒ってる様子だった。
「お前なあ……」
「ご、ごめんなさい」
「いや、怒ってねえ。心配してんだよ」
ぐっと腰に回った手に力が籠った。そういえば近いままだった。
「あ、あの……」
「ん?」
「もう、手離してもらっても大丈夫ですよね?」
私は太陽のように笑う姿にとても弱い。
「ざーんねん」
ちっとも残念そうに見えないサボさんとようやく一定の距離が生まれた。
さっきまでの距離感、考えてみたらめちゃくちゃだなと改めて思う。隊長と同じぐらいパーソナルスペースが狭いのだろうか、そんなところまで兄弟で似なくていいのに。
「サボさん、いつもそんな距離感で話してるんですか?」
此処に来てようやく自分の傷を目の当たりにした。走っていたからか、すっかり乾ききった血はハンカチでこするとぺりぺりとはがれる。出血も落ち着いているので、痛みさえ我慢すれば後は逃げ切れるだろう。
一通り身体の傷を確認し、サボさんの方へと向き直った。
「なんだ、照れたのか?」
「そりゃあ……照れますよ」
ニヤニヤとからかうサボさんから視線を外す。いつもこうだ。サボさんは私の反応を見て楽しんでいる。耐性が無い事をわかっていて。
「あ……ああいうこと、したことないですもん」
今日はちゃんと「だから今後はからかうの辞めてください」って言ったほうがいいだろう。さすがに出会うたびにからかわれて、悔しさ半分、恥ずかしさ半分で複雑なのだ。
言葉を続けようと口を開いたが、目の前のサボさんの姿に驚きすぎて非難の言葉は出なかった。
「お前さー、ホント……」
あのサボさんが照れている。なんで?
目元を手で隠して「あー」と唸る理由がわからず首を傾げた。今の話にサボさんが照れるところなんてあっただろうか。
「うん、まあ、だよな。わかっててやってるわけないよな」
独り言を呟き、サボさんは納得したのか大きく頷くとまた私が大好きな三兄弟特有の笑顔で言う。
「とりあえずお前が無事でよかった」
ニカっと音が鳴りそうなその笑顔に私も釣られて笑う。
ちゃんとお礼を言えてなかったので改めてサボさんにお礼を述べた。
「サボさん、助けていただいてありがとうございました!」
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