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2020/06/28  twst
 game

レオナ・キングスカラー
※ぴくしぶ再掲 ↓の続き








 珍しくレオナ様が短い休暇に帰郷されると伝言が入った。
先日ナイトレイブンカレッジへ戻られたばかりなのに、もうお会いできるのかと私は心を弾ませていた。

 恐怖と迫害は紙一重だ。

 いつの頃からか、レオナ様の帰りを待つ従者は居なくなった。
王宮の従者たちは皆、恐れていた。レオナ様の全てを砂にしてしまう力を。
 私の父だって例に漏れず、レオナ様を恐れるあまり嫌悪していた。
 私がチェカ様の付き人となって以来、レオナ様とお話をする機会が多いことを危惧している。
何度、身内や知り合いから聞こえる無意識の迫害に心を痛めたかわからない。
 それでも、レオナ様ご自身が受けられた痛みに比べれば微々たるものであろう。

 話を元に戻そう。

 私は鏡の間でレオナ様がご帰還されるのを今か今かと待ちわびていた。
 最初はチェカ様もご一緒していたのだが、お勉強の時間となったため私一人でお待ちしていた。
 しばらくして鏡が光り始める。ナイトレイブンカレッジと夕焼けの草原が一枚の鏡で繋がった。
 逆光の中に見慣れた人影が見え、息を呑んだ。どのタイミングで「おかえりなさいませ」と言おうか。心臓の音が耳元まで聞こえるぐらいどきどきしていた。

「え……」

 鏡をくぐったレオナ様の隣には、制服を着た小柄な女性と一匹の獣。
鏡と床のわずかな段差に気を掛けたレオナ様が女性に手をさし伸ばす。女性も慣れた所作でレオナ様の手を取ったことから、二人の関係性が決して軽薄なものではないとわかる。

 あ、痛い。

 胸が何かで刺されたようにずきんと痛んだ。
 光が収まり、レオナ様の視線が私を捉える。私を射抜く翡翠色の瞳に、初めて恐怖を覚えた。唇が震えてうまく声が発せない。

「おかえりなさいませ、れおなさま」

 果たして、いつものように笑えていただろうか。




 私がレオナ様を初めてお見かけしたのは、八歳の時。
ファレナ様のご成婚パーティーに従者の家族としてお招きいただいた時だった。
 その日は国を挙げてのパーティーだったので、来賓以外にも、王宮に住み込みで働く末席の家族も王宮に入ることが許された。

 初めて見る煌びやかな世界に目を忙しなく動かしていたが、何より目を惹いたのは一人の男の子だった。
 それは喧噪の中とは思えないとても静かな光景だった。天井まで届くガラス張りの壁にもたれかかって外を眺める姿に、何故か見ている私まで悲しくなる。

「おとうさま、あの方はだあれ?」
「ん? ……ああ、第二王子のレオナ様だよ」
「おうじさま?」
「そうだよ」

 にこにこ笑ってはいるが、父は私がレオナ様に興味を持っているのが嫌だったらしい。
私の身体を反転させると、円卓の並ぶ華やかな方へと肩を押した。
ぐいぐいと肩を押される中、窓の方へ振り返ると、外を眺めていた翡翠色の目がこちらを見つめていた。

 彼は全てを諦めているようで諦めきれず、瞳の奥に灯火を宿しているような、不思議な目を持っていた。なんて不安定な色をした人なのだろう。
 私は彼の姿に、全身に稲妻が走るような感覚を覚えた。

 きっとこれが恋なのだわ!

 私はいつか、あの瞳を真正面から見つめ返すことの出来る人間になりたい。
幼いながらにたどり着いた思考の先には、なんとも夢見がちな答えが待っていた。
 しかし、恋は人を盲目にするとはよく言ったものだ。
パーティー以降、大の勉強嫌いであった私が真面目に勉学へ取り組んだ。母には大層驚かれた。

 私の父は大した地位や名誉もない大勢居る従者の中の一人だった。
年に数回しか会えないが、お給金は街で働くよりも沢山もらえるし、何より安定している。その為、母は私を女手一つで育ててくれた。
 幸い、母の手を煩わせることもなく、ハイスクールは夕焼けの草原でもトップクラスの学校に特待生として入学出来た。金銭面での苦労はなかったが、未来を見据えて特待生と言う道をあえて選んだ。

 そうこうしているうちに、私は飛び級でハイスクールを卒業し、念願の王宮への就職が内定した。
あの成績は下から数えた方が早かった私が、歴代有数の好成績を収めたとして卒業式では表彰もされた。

 こうして王宮仕えの末席に身を置いた私は、その後も順風満帆に官位をあげていった。
最初はごみ処理、次は清掃、その次はお支度。末端の末端から数年でチェカ様――次期国王の側近までのし上がったのは伊達ではない。
 それもこれも、少しでもレオナ様の近くに居れるよう、努力を惜しまなかった結果だ。

 レオナ様にもう一度会いたいと言う不純な動機が、人生に様々な選択肢を与えてくれたのだった。




 衝撃の一目惚れから、十年。

 私は今、実家の布団の中で瞼を腫らしていた。
 鏡の間でレオナ様をお出迎えしてから数時間後、私はお暇をもらいに皇后陛下の元を訪ねた。
実家の母が少し心配なので数日間お休みをいただきたいと申し出れば、二つ返事で承諾をいただけた。去り際に「レオナが帰ってきたのにいいの?」と言われたが、そこは笑って誤魔化した。

 レオナ様が帰ってこられるのを誰よりも楽しみにしていたのは、きっと私だろう。いや、もしかするとチェカ様かもしれないが。
その私が帰って来られてすぐに休暇が欲しいなど、何かあったのかと不審に思うのは当然だ。

 しかし、何も無いのだ。

 私が勝手に恋心を抱き、勝手に失恋しただけ。
いつかレオナ様の隣には素敵な女性が立つなんてわかりきっていたはずだった。少し早まっただけで狼狽えているようでは、まだまだ従者として未熟だと自分でもよく理解している。

 ただ、今は。十年と言う長い月日を費やした初恋を昇華するだけの時間が欲しかった。




 王宮に就職して以来、初めての長期休暇で何をしてよいかわからない。
もう何日も寝るだけの休暇を過ごしているが、目が覚めると鏡の間での光景がよぎる。起きて早々、枕を濡らす日々が続いていた。

 今日はレオナ様がナイトレイブンカレッジに戻られる日だ。
せっかく帰郷されていたのに、一度しか顔を合わせずにまた日常に戻ってしまうなんて。
自分で決めたこととは言え、自己嫌悪で明日への活力を見出せそうに無かった。

「邪魔するぞ」
「え、あ、れ、レオナ様!?」

 無遠慮に自室の扉が開いた。
てっきり母かと思い、顔を覗かせると、今一番会いたくない人がドアノブを握っていた。

「今日学校にお戻りになられるのでは……」

 ベッドに近づいてくるレオナ様から少しでも距離を置きたくて、飛び起きるなり布団を蹴り飛ばした。

「……やっぱりな」

 何がやっぱりなのかわからないが、確信を持った素振りのレオナ様がため息をついた。
腰に手をあてると、呆れた物言いで口を開く。

「お前、俺のこと避けてただろ」
「そ、そんなこと……」
「だったら目ェ合わせろ」
「い、いやです」
「こっち向けつってんだろ」

 とうとうベッドに乗り上げたレオナ様が私の顎を掴んだ。
こんな至近距離でレオナ様と見つめ合ったのは、勿論人生で初めてだ。
きりきりと締めあげられる顎の痛みさえなければ、もっと気持ちは舞い上がっていただろう。
 痛みのあまり、瞼を閉じると鏡の間での優しく手を伸ばすレオナ様が脳裏をよぎった。冷や水を浴びたように心は冷静を取り繕うとする。

「あ、あの方には、そんな強引なこと、しなかったじゃないですか」
「あ?」
「一緒に帰って来られた、女性、です!」
「あれは……」

 少しだけ、顎にこめられていた力が弱まる。
言うなら今しかない。腹をくくり、私は真摯に見つめ返すと、レオナ様の言葉を遮った。

「もう、レオナ様に振り回されるのは沢山なんです!」

 ぎり、と奥歯がきしむ音がした。私ではなく、レオナ様が奥歯を噛みしめていた。
 どうしてレオナ様が悲痛そうに顔を歪めるを必要があるのだろうか。私よりも悲壮感の漂う表情に、胸が詰まる。

「お気づきなんでしょう? 私の気持ち。
 こんな下心のある従者、気持ち悪いだけじゃないですか」

 私は悲しげな表情のレオナ様に恋をした。
あの方の目に映りたかった。
ただそれだけだったのに、なぜ私がレオナ様にあの時のようなお顔をさせているのだろうか。

「私はチェカ様付きの側近です。お邪魔でしたら、金輪際レオナ様とは関わりませんので……」

 やはり距離を置くしかない。
大丈夫、レオナ様には素敵な女性が寄り添ってくれるのだから、私など最初から居なかったと思ってもらえれば、何も問題などないはず。私の口元には、諦めの笑みが浮かんでいた。

 刹那、レオナ様が大きく目を見開かせる。

「逃がすわけねえだろ」

 ダン、と鈍い音が部屋に沈黙を与えた。
何の音か最初はわからなかったが、レオナ様が壁を殴った音だった。
 気が付けば、私は壁とレオナ様に挟まれている。身じろぎ一つもできない状況に、目を見開いたままレオナ様を見上げるしかできない。
眉根を顰め、射抜かれた眼光に言葉を失う。

「お前の気持ちなんてとっくの昔に知ってる」

 一目見て泣き腫らしたとわかる瞼に、レオナ様の大きな手が優しく触れる。壊れ物を扱うような手つきに、胸が締め付けられた。

「俺が嫌いなヤツを傍に置くようなヤサシイ人間に見えるか?
 だったらそれはお前の幻想だ。
 ハァ、もう少し外堀を埋めるまで我慢しようとしてたが……」

 壁際に追いやられていた身体が引っ張られる。
どさりと言う音と共に、目の前にはレオナ様のお顔と、見慣れた天井が視界いっぱいに映り込んだ。

「逃げたお前のせいだからな」
「ま、まって、私パジャマ……」
「黙ってろ」

 首元に顔を寄せると、うなじをきつく噛みつかれた。肌を突き破らんとする八重歯がぎちぎちと嫌な音を立てている。
 このままでは、本当に食べられてしまう。比喩でもなんでもない、言葉通りの意味合いでだ。

 びくん、と身体を強張らせると突き立てていた歯を離し、傷口を舐めるように何度もうなじに舌を這わせる。私は身体を捩ることも出来ず、ぞわりとする感覚にただただ何度も声をあげるしかできなかった。
 しばらくして、皮膚がふやけてしまうのではと疑うほど執拗に這っていた舌は、可愛らしいリップノイズと共にうなじを離れた。

「この前は毛玉に邪魔されたが、今日は誰も助けなんざ来ねえよ」

 両手を縫い付けられると、レオナ様の端正なお顔が鼻先がぶつかり合う距離まで近づいてくる。黒みがかった長い御髪が私の退路を断つ。

「俺を受け入れるか、それとも既成事実を作らされるか。どっちがいいんだ?」
「れ、レオナ様は……?」
「あ?」
「レオナ様は、本当に……私で良いのですか? あ、あんな可愛らしい方とご一緒されていて……本当に、何も……」
「……」

 大袈裟にため息を吐き出すと、ニヒルな笑みを浮かべたレオナ様の手が軽く腰回り撫でた。

「どうやら身体に直接教えた方がいいらしいな?」
「え、あ、お、お待ちください……。心の整理がつかないんです……」

 更に間合いを詰めよるレオナ様に、私は思わず肩を押し返す。
きっとレオナ様が本気になれば今の抵抗など無力に等しいのだろうが、軽く押し返しただけで弁解の余地は与えられた。

「ほ、本当に私でよろしいのでしょうか……」

 正直、これも私の描いた夢で、目が覚めたら誰も居ない部屋に一人取り残されているのではと疑っていた。

「お前がいいんだろうが」
「で、でも……」
「あー、ごちゃごちゃうるせえな」

 そう言うとレオナ様は一度退くと、馬乗りの体制で髪をかき上げた。

「欲しけりゃなんでもくれてやるよ。お前が一番望んでいる身分もな」

 からかうような素振りは一切ない、真摯な瞳で見下ろすレオナ様のお姿に息を呑む。
 髪をかき上げただけで怪しげな色気を放つレオナ様の仕草一つ一つに、脳がびりびりと麻痺していく。

「ま、お前の為にずっと空いてたけどな」

 緊張感すら感じる室内に、レオナ様の声だけが淡々と紡ぎ出されていく。
 言葉が上手く呑み込めず、私はベッドに投げ出されたままの姿で見上げるしかできなかった。

「どういう……」

 片眉を吊り上げてほくそ笑んだレオナ様が私を捉えた。見たことのない獰猛な視線に身震いする。

「早く俺のモンになれってことだ」

 言い終わると同時に再びレオナ様がのしかかってくる。
広い背中に手を回せば、スローモーションで唇が降りてきた。
拒むことなく受け入れると、レオナ様は後頭部に手を回し、更に体重をかけられる。そんなことしなくても、もう逃げるわけないのに。

 ついばむようなキスを何度か繰り返し、レオナ様の唇が離れた。
ぎらついた翡翠色の双眸と目が合い、どちらからともなくもう一度口づける。

「次のホリデーはたっぷり可愛がってやるから、覚悟しとけ」

 唇と唇とが触れ合う寸でのところで言葉を交わすレオナ様の掠れた声が、酸素の足りない頭に響く。

 まだ夢心地でぼんやりしていると、のしかかっていた重みが消えた。
 レオナ様は部屋の時計を確認されたので、そろそろナイトレイブンカレッジに戻らねばならないのだろう。
お見送りをするために立ち上がろうとしたが、足に力が入らずベッドに倒れ込んだ。
 レオナ様も驚いた表情をされていたが、鼻で笑うと再びベッドサイドに腰かけられる。
遠慮なく腰に手を添えられ、ふらふらの身体が引き寄せられる、触れ合う場所から、レオナ様の熱がじんわりと伝わってくる。

「これはこれは、ホリデーが楽しみだなァ?」
「で、できればもう少しこまめに帰ってきてくださると、嬉しい、です」

 顔が一気に熱を孕む。俯いたまま精一杯の意地っ張りで返すと、つむじに唇が寄せられる。
 おそるおそる見上げたレオナ様の表情は、今までみたどんな表情よりも慈しみのある笑みを浮かべられていた。

 ああ、この表情を引き出すことができるのは私だけなんだ。そう思うと、なぜか涙がぽろりとこぼれた。
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