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2020/06/28  twst
 game

レオナ・キングスカラー
※ぴくしぶ再掲






「ぼく、お外に行ってみたい!」

 首をかしげたチェカ様は、それはそれは天使のようだった。しかし、放たれた一言は私を狼狽させるには十分の威力を持っていた。

 夕焼けの草原、王位後継者のチェカ様はまだ幼い。
その小さな両肩には、生まれた時から次の時代を背負うことを宿命とされていた。
故に、チェカ様は生まれてからほとんどの時間を王宮内で過ごされている。
 いつもならお父上である現国王・ファレナ様が宥めると、落ち込みはされるが、聞き分けよく我慢されていたのだが。

 ……どうしてこうなった。

 目の前には城下の子らと砂場で戯れていらっしゃるチェカ様。その場で仲良くなった子供たちと笑顔を交わす姿に、もう人を惹きつける才能がお持ちなのだと感嘆の息が漏れる。
ほぅ、と息を吐きだして恍惚に浸っていると、同じベンチに座っていたもう一人のお目付け役が鼻であざ笑った。

「相変わらずの盲目っぷりだな」

 もう一人の悩みの種でもあるその人は、幼い頃からいつも私を馬鹿にしてくる。
悔しくて頬を膨らませても、相手にダメージなど微塵もない。睨んでやろうと視線を合わせるがその段階で私の負け。神々しさに耐えられず即座に目を逸らした。

 ファレナ様と皇后陛下がチェカ様のお願いを叶えるために一つ条件をつけられた。
その条件と言うのが、ホリデーで帰郷されていた第二王子のレオナ様を連れて行くことであった。
勿論、突然突き付けられた子守りに、レオナ様も反発されたが、皇后陛下に口で敵うわけも無く。渋々引き受けられて今に至る。

「じろじろ見んな」

 視線はすぐに逸らしたが、先ほどからちらちらと横目で見ていたのはしっかりバレていたらしい。
足を組みなおされたレオナ様がなじるような目で私を見下ろしていた。

 私達は今、人一人分のスペースを開けてベンチに座っている。
レオナ様は「不自然だろ」と隣に座るように催促されていたが、そういう訳には行かない。
チェカ様の付き人としてレオナ様と同行することを許されたとはいえ、レオナ様と私は主従関係にある。本来、横に並ぶことすら不敬なのだ。
人一人が座ることが出来るスペースは、云わば従者としての最終防衛ラインと言っても過言ではなかった。

 それに、私がレオナ様を横目で見てしまうのには理由があった。
今日はお忍びで城下に降りているとあって、レオナ様は少しばかり変装をされている。
そのお姿がめちゃくちゃお似合いで、正直直視ができないのだ。

 王家の皆々様がお召しになる伝統衣装は布を纏うものが多く、身体のラインが強調されにくい。王宮勤めの私にとって、今日のレオナ様のお姿はとても新鮮だった。
 細身の黒いパンツに、第二ボタンまで開いた白いシャツ。いつもつけていらっしゃるアクセサリーが服装に色を添えている。
 元々整った容貌をされているうえに、端正な体つきを持て余すことなく引き出す姿は、逆にお忍びなのに目立っている気がしなくもない。長い足を組まれている姿はもはやモデルのようにも見えた。

 そのうえ、いつもは降ろされている長い髪を一つにまとめられていて、目元にはなんと黒い伊達メガネをかけられている。

 ……このギャップに心を奪われない女なんて居ないはず。

「なんでそんな縮こまってんだよ」
「いや、あの……」

 久しぶりにお会いしたレオナ様が素敵すぎて視線を上げられません! なんて、本人に言えるわけがない。
 恥ずかしながら、私は初めて父の仕事場である王宮に足を運んだ日に、レオナ様に一目惚れをしていた。
幼い頃より抱いている感情を、レオナ様に知られるわけにはいかない。察しの良いお方なので気づかれているかもしれないが、今のようなうやむやの関係のままで居てほしい。

「態度もよそよそしい。いつもの毛玉は私が守る、っつってる勢いはどうしたんだ」
「ちぇ、チェカ様は毛玉ではありません!」

 レオナ様の挑発に乗って勢いよく振り向けば、レンズ越しの瞳とばっちりと視線が絡み合う。

「やっと見たな」

 ベンチの背もたれに寄りかかり、肘をつくレオナ様もまた様になっている。
 急に目が合い、言葉を詰まらせた私を見て、レオナ様が目を細めて笑う。
その表情は何かよからぬことを考えておられる時のものだった。
 からかわれているとわかっていても、意中の殿方の見慣れないお姿に自然と顔に熱が集まる。

「なんだ? もしかして見惚れてんのか?」
「ち、違います!」
「じゃあ目逸らすな」

 逸る心臓を落ち着かせるべくシャツの胸元を掴んでみたが、自分が身分違いの恋心を抱いている事実がありありと伝わるのみ。

「で、できません……!」
「なんでだよ」

 言葉を交わすごとにどんどんレオナ様の声が低くなっていく。
 どんな表情をされているかわからないが、獲物を見る目で睨まれたが最後、レオナ様が納得のいくまで追い詰められるだろう。万事休す。
 まさに、この一人分の空席だけが最後の防壁だった。

 そのテリトリーさえも少しずつ蝕まれていく。
私の頬に向かってじりじりと伸ばされたレオナ様の手が近づいてきた。
 あと少しでレオナ様と触れてしまう。その事実を受け入れたくなくて、私は肩を縮こませ、ぎゅっと目を瞑った。

「おじたーん!」
「……チッ」

 暗闇の中、チェカ様のお声とレオナ様の舌打ちが耳に届いた。
 薄目を開けて状況を確認すると、天からの救いによって伸ばされた手は空を切っていた。
慌てて体勢を整え、楽しそうに砂場で遊んでいるチェカ様に手を振り返す。チェカ様はにっこりと笑うと、また子供たちと共に何かを作り始めた。

 隣からは私の身代わりの速さに苛立たれたのか、「テメェ」と地を這うような声が聞こえたが、聞こえないふりをした。

 なんとか場を乗り切れたと心の中でガッツポーズを構えたところで、すぐに新手がやってきた。

「あらあら、可愛らしいご夫婦ね」
「ご……!?」
「急に声をかけてごめんなさいね。先ほどから貴方たちのやりとりがとても可愛らしくて」

 次の刺客は通りかかった年配の女性だった。犬の散歩と思われる女性は、白い女優帽と白いワンピースがとても似合っていた。

「あんなに可愛い子が居るのに奥様は随分恥じらいがあるようね」

 女性は私とレオナ様の間にあるスペースを見て微笑ましそうにしている。
私が夫婦発言を否定しようとしたが、優しい口調でレオナ様が女性に話しかけられた。

「座られますか?」
「いいえ、大丈夫よ。お気遣いありがとう」

 瞬時に周囲を見渡したレオナ様は、席を譲ろうとベンチから立ち上がる。周りを見渡せば、確かにベンチは何処も人でいっぱいであった。
 レオナ様の機転に私も慌てて立ち上がろうとするが、リードを持っていない方の手で女性は私を制した。

「代わりにと言ってはなんだけど、どうぞいつまでもお幸せに」
「ありがとうございます」

 レオナ様が対女性用の笑みを浮かべてお礼を述べると、私に顎で合図をした。とりあえず話に乗っておけと言うことだろう。

「あ、ありがとうございます……」

 視線は胸の辺りで組んだ手に落としたままであったが、それすらも女性には微笑ましく見えたらしい。フフフと上品な笑い声が聞こえ、視界の端にあった犬の足が女性の足音と共に消えていった。

「だってよ、奥様」
「その誤解、どうにかならないのでしょうか……」
「なんでだよ」

 レオナ様が元の位置に座ると、私もスペースを確保したままちょこんとベンチに座した。

「恐れ多すぎます」
「いいじゃねえか。この際事実にしちまえば」
「れ、レオナ様?」

 しびれを切らしたレオナ様が空いたスペースを一気に詰め寄る。人が一人は入れそうだった空間はぎりぎり子供が入れるか否かというほどになっていた。
 「お戯れを」と声を上げようとした時、頬を膨らませたチェカ様がひょっこりと顔を覗かせた。

「二人だけ楽しそうにしててずるい! ぼくもいれて!」

 チェカ様はベンチにぴょんと登り、わずかに空いていたスペースに座った。少し狭いスペースへ収まったチェカ様は、満足そうに足をぶらぶらと揺らしている。

「えへへ、だいすきな二人にかこまれてでしあわせ!」

 満面の笑みを浮かべるチェカ様に、レオナ様は邪見そうな視線を送っていた。
従者である私はチェカ様の一言に胸がいっぱいになり、全く周りなど見えていない。

「身にあまるお言葉……! ありがとうございます!」
「おなかすいた~」

 お腹をさすり、こてんと頭を預けられるチェカ様の可愛いらしさと言えば、見ているだけで天に召されそうだ。私は「可愛い!」と叫びそうになるのを、奥歯を噛んで懸命にこらえた。

「はい! 昼食にいたしましょう!」

 宮廷料理人が持たせてくれた三つのお弁当を鞄から取り出すと、チェカ様は両手をあげて喜ばれた。
 お弁当の中身は幼子が喜びそうなカラフルな具材が使用されている。特にチェカ様が一番喜ばれていたのは、ハンバーグの上にスライスしたウインナーとチーズと海苔で出来たライオンだった。後で料理長にお礼を伝えておこう。

 チェカ様が頬いっぱいお食事されているのを見ているだけで、幸福度があがり、私の頬も自然と緩む。
 レオナ様との一件など、すっかり頭から抜け落ちていた。

 昼食を終え、チェカ様は他の遊具に興味を持たれたので、お供してブランコや滑り台と言った定番の遊具で遊んだ。最後までレオナ様がチェカ様のお誘いに乗ることは無かったが、私でどうにか代理が成り立っていたようだ。子供の体力は底知れず、途中から振り回される形となったが、初めて降りた城下を満喫していただけたのならば本望である。

 帰り道、すっかり遊びつくしたチェカ様は私の腕の中で眠っていた。
レオナ様には「俺が持つ」と言っていただいたが、これは従者の役目である。いくらレオナ様とは言え、譲ることは出来ない。
私が頑なに拒んだ結果、最終的には折れてもらえた。

 そういえば、ベンチを立ち上がる間際、レオナ様は耳元で「これで逃げれたと思うなよ」と呟かれたのだが、私は一体何から追われる羽目になるのだろうか。

 もしかして? と期待したくもなるのだが、相手は王族。しかもあの引く手あまたのレオナ様だ。私のような仕えることにしか喜びのない女など興味のきの字もないだろう。きっと、からかうには手っ取り早い相手だとは思うが。この数年を鑑みるに、自分が女扱いされていないことぐらい理解していた。

 だから、どうか。

これ以上私の身分違いの恋心をくすぐらないでほしい。

 本当は早く帰りたいはずなのに、レオナ様は歩幅を私にあわせてくれている。そんなレオナ様のさりげない優しさも大好きなのだが、今はその優しさすら痛い。

 夕焼けで照らされた横顔に、悲鳴をあげたはずの胸がまた高鳴った。
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タナカユキ
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