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2020/12/07)
fgo
渡辺綱とカルデア職員
(※5.5章ネタバレ)
(※5.5章ネタバレ)
天覧聖杯戦争が始まってしばらく。女人が空から降ってきた。
自分は本来来るはずではなかったが、
あたふたと弁明する女は確かに人を欺くのは苦手そうな人種だと見
霊体化を解いたキャスターに驚くこともなく、
ならば、と夜更けと言うこともあり、
案の定キャスターには用心が悪いと咎められ、女人自身ですら「
「非力な女人一人、俺の寝首をかくこともままならんだろう」
天覧武者ではないーー身近にいる奇なる力を持つ者らとは比べ物に
そう言い放って踵を返すと、おずおずと女も俺の後ろに続いた。
決して、彼女の安堵した姿にあの人の面影を抱いたわけではない。
――決して、ありえない。
数日して、
彼女は誤解とは言え、
「仲間のところへ行けばいいものを」
感情が乗り切らない抑揚のない声で俺が言えど、
それからと言うもの、
ひ弱な彼女は、護るべき存在。
元の時代の話を聞いても、前線で戦う立場ではなかったらしい。仲間を後援する身でありながら、見知らぬ土地で最前線に身を置くのはどのような心地だろうか。
背後に隠れ、
それでも。
彼女の肩を引き寄せ、庇い、
いつか、
うたかたの夢は、膨らむばかりであった。
源氏会議を終え、正気に戻った俺は彼女を見やった。仲間に歩みを寄せ、祝福する彼女にあの人の面影はない。
自嘲気味に聖杯にかけようとしていた望みを口にした瞬間、
痛い、熱い。今まで負ったどの傷よりも重い。
いささか驚いたが、
「非力な女人と言ったが、撤回しよう」
彼女の方が強い心を持っていたようだ。哀れなのは俺一人だった。
目を見開いた彼女から一筋の涙が流れたのは、
全てが収束し、
彼女は仲間に声をかけ、「後で向かう」
「綱さん」
「ああ」
「いつまでこちらに滞在できるかわからないので……。
らしくない陰りのある表情に、眉根をしかめる。
「今夜はお前たちを含めて宴会だと頼光様が言っていたぞ」
「そう、ですか。その頃まで此処に居られたらいいのですが」
曰く、英霊同様、
俺を見上げる目には、燦燦とした光が宿っていた。もはや眼中には俺も、都も、この時代の何もかもが映っていない気さえした。
「
「礼には及ばん」
声音が、きつくなる。責めているわけではない。
一瞬、ひるんだ目をしたがすぐに彼女は微笑んだ。
「私、ずっと考えてたんです。
「……」
「ご存じの通り、私は千年先から来ました。
微動だにしない俺に首を傾げたが「続けてくれ」
「綱さんに悲恋なんて似合わないです」
笑顔の消えた真摯な瞳が射貫く。
「どうか、前だけを見ててください。貴方たちが護った今が、
もちろん、
自分たちの時代に戻ると、
俺の肩の力を抜かせるべくあれやこれやと自分の時代の話を語る。
「……ありがとう」
驚きのあまり硬直した彼女があたふたと手を上下に動かす。
「私こそ、ありがとうございました」
右手に頬を摺り寄せた彼女は、
「また夜に」
きっと彼女たちが紫式部邸から戻ってくることは無いのだろう。唇を噛み締めるだけで、彼女は何も答えなかった。
名残惜しそうに離れた熱が、俺の手をすり抜ける。
小さな背中が振り返ることは、ついぞ無かった。
「……セイバー、渡辺綱。
特にいうことは無い。鬼や魔性を斬りたいのなら、
人を斬るのは少し苦手だが、そこは勘弁して欲しい」
彼女の仲間の元に召喚される未来を、まだ誰も知らない。
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タナカユキ
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