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2025/07/18  [PR]
 

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カルデア日記14
※5.5章の話







「……!」
「マスター、いかがされましたか?」
「あ、うん。ちょっと夢見が悪かっただけ」

 あまりの恐怖に布団を押しのけて飛び起きた。浅い呼吸を繰り返していると、霊体化して見張っていたらしいアルジュナが姿を現す。

「ごめんね、心配かけて」
「顔色が優れませんね。食堂から何かもらってきましょうか」
「こんな夜中に誰かいるかなあ?」
「誰も居なければ私がチャイを淹れます」
「やった! ありがとう」

 空元気をかき集め、アルジュナが部屋を出るのを見送るとベッドへ倒れこんだ。
 ひどい惨劇を見た。まだ脳裏に赤い血がこびりついている気がする。

「……それに、あの影は」

 見知った姿よりも幼い、金髪の小鬼。ぺたぺたと素足で几帳の奥へと消えていった彼女を、私の視点――つまり私が契約したサーヴァントは唯々呆然と見つめていた。

「……」

 サーヴァントの夢を見ることはあまりない方なのに。今回は特異点でも行動を共にしていたせいか、思ったより縁が深くなっていたようだ。

「……起きたら謝りたいな」

 アルジュナの淹れてくれたチャイを飲んで落ち着いたのか、二度目の眠りで夢を見ることはなかった。





 次の日、素材のために平安京へとレイシフトを向かった。今日のメンバーはアルジュナとアーサーさん、そして綱さんの三人だ。先の二人はどちらか一人で戦力は十分だが、平安京に同行できなかったことをとても悔やんでいたので選出。
 察しのいい彼らは今回綱さんを選んだことに理由があることは気付いているだろう。平安京に着くなり、様子を見に行くと言って霊体化した。

「マスター」
「はい」
「何故、俺なんだ?」

 堀川通を北上していると、歩みを止めた綱さんが私を見据えた。言葉は足りないが言いたいことはよくわかる。

「平安京での記録は見られました?」
「いや……」
「いえ、責めてるわけではないです」

 むしろ見ない方がいいかもしれない。あの惨劇を目の当たりにした男に、あの言葉を聞かせるのは酷だろう。

「綱さんと茨木ちゃんの古傷、えぐっちゃうかもしれないんで」

 私が苦笑いをこぼすと、綱さんは理解したのか小さく息を吐きだした。

 昔、修学旅行で京都に来たことがある。定番中の定番である二条城に向かう途中、並走する川――堀川を見下ろしたが溝か? と思った。平安時代はさすがにちゃんと川だったらしく、覗きこむと想像以上の水が流れていた。
 せせらぎが聞こえるだけの静かな闇夜。切れ長の目が私を見下ろしている。

「……綱さんに謝りたかったんです」
「何故だ」
「貴方の過去を、覗き見てしまったので」

 ぱき。近くの屋敷で松明の燃える音がやけに大きく聞こえる。

「……」
「ごめんなさい」

 特異点の綱さんが話していたことは、汎人類史の渡辺綱と言う偉人もおおむね同じ過去を経てカルデアに召喚されたようだ。
 あの夢は、彼の独白をより鮮明にした。逆に言うと、綱さんが内に秘めていた出来事を暴いてしまったのだ。

「気にしていない」
「え」
「稀にあることなんだろう。説明は受けている」

 日本屈指の鬼殺しは、眉一つ動かさずに淡々と答える。私の方が動揺して口を数回開閉させていたが、これ以上謝るなと視線が訴えていた。

「じゃあ、一つだけ聞いてもいいですか?」
「主の命であれば」

 カルデアにも機械のように感情がわからないサーヴァントは沢山居るが、この人もその部類だろうか。涼しげな眼を見つめ返しても、瞳の奥は何も見えなかった。

「綱さんなら、聖杯に何を望みますか?」
「……」
「ごめんなさい、答えたくないのはわかります。私が勝手に夢を見てしまったのも謝ります」

でも。

「私は、特異点で出会った綱さんが望んだことと、あの夢が関係ないなんて思えなくて」

 なんというエゴだろう。結局隠されている傷口をえぐりだすだけでなく、自ら塩を塗らせようとしているなど。

「……私だったら絶対にやり直したいと、時を戻したいと聖杯に願ってしまうんじゃ……って考えたり、とか」

 瞼を伏せるとまだ鮮明に思い出せる、いや、また私は見ているのだ。彼を目の前にして、同じ夢を。
 夢で感じることのない血の臭いが鼻の奥に広がっていく。これほどリアルに感じているのに夢だと言うのか。

きもちわるい。

 とっさに綱さんの白い着物を掴んでしゃがみ込んだ。私の様子がおかしいと綱さんも片膝をついて声をかけてくれているようだが、ノイズがかかって聞こえにくい。
 辺りを取り巻く異臭と、目の前に広がる惨状と、耳鳴りのするほど静かな屋敷にひたひたと聞こえる足音だけが情報として脳に処理されていく。

 私の経験したことじゃないのに。私なんかが理解できるものじゃないのに。
 どれだけリアルでもこれは夢。目を開ければ消えるはずなのに開け方がわからない。

「主! ……マスター、聞こえているか!」

 遠くで綱さんの声が聞こえる。服を掴む手に力を込めると、肩の乗った綱さんの手にも力が入る。息苦しさから閉じたままの瞼から涙が伝った。

「俺は聖杯に望みはかけない。確かに未練はあるが、やり直すなど無意味だ。
 だからマスター、お前も俺の過去を見たことを悔やむな」

 その言葉は、落ちた雫が広がるように染み渡った。
 強張っていた体から力が抜け、やっとうまく酸素を吸い込めた。深呼吸を数回繰り返し、重い瞼を開くと、寄りかかったまま私は綱さんを見上げた。

「ありがとう」

 許してくれてありがとう。助けてくれてありがとう。そして、答えてくれてありがとう。
 いろんな意味を込めて礼を述べたつもりだが、果たして聞こえただろうか。

 それにしても、またやってしまった。帰ったらアルジュナにまた小言を言われるんだろうな。
 意識が途絶える前に、アルジュナとアーサーさんが霊体化を解いて駆け寄る姿がかろうじて見えた。





「……騎士王、授かりの英雄。居るのだろう」
「はい」
「ああ」
「何故異変が起きた段階で霊体化を解かなかった」

「それはマスターが望んでいない、とだけ言っておきましょう」
「……何?」
「マスターの異変はノウムカルデアでも確認されているはずです。なのにすぐに止めなかった。おそらくマスターが一枚噛んでいたのでしょう」
「どういうことだ?」

『アルジュナの言う通りさ!』
「ダ・ヴィンチ」
『やっほー、遅くなってごめ~ん! でもバイタルチェックは欠かさず行っていたから、梓ちゃんの異変は確認済みだよ!』

『綱と話をしているうちにレムレム状態になって彼の夢を見てしまったんだ。
 今は安定しているし、眠ってる間に帰還しようか。アルジュナ、梓ちゃんを』
「はい」

「渡辺綱」
「なんだ、騎士王」
「彼女は少し――人の心に感化されやすい。自分の感情のように取り込んでしまう癖があるようだ」

「気を悪くしないでほしい。それだけマスターは君と向き合おうとしているんだ」
「……わかっている」
『はーい、おしゃべりはそこまで! レイシフト開始するよ!』


 やり直したいなど、二度と願わない。たった今、主にそう誓ったのだから。
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