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2019/06/04)
DC
赤井秀一
※ガールズバンドネタ
思い出すんだよなぁ。そう言って真純ちゃんはシュウニイの話を始めた。
真純ちゃんの言うシュウニイ……つまりライの話を、私の頭は考える事を拒否していた。
ぐらぐらと頭の中が揺れる。思わずしゃがみこむと、安室くんと話していた真純ちゃんが私の異変に気付いて同じようにしゃがみ、顔を覗き込ませた。
大丈夫か!?と言う声にうまく声が出せなくて、首を大きく縦に振った。焦るその表情はやはり兄妹。よく似ている。
「ごめん、死体とか間近で初めて見たからちょっと気分悪くなって」
そう言って部屋を去ると、ようやく呼吸が出来た気がした。
瞼を閉じると過ぎるのは過去ばかり。初めて彼と出会った日から、次々をフラッシュバックしていく記憶たち。最期に見た彼は長かった髪を切りそろえていた。一瞬だけ見えた彼の姿は焼き付いて離れない。震えが止まらない身体を守るように無機質な壁を背にしゃがみこんだ。
しばらくして目の前の扉が開く。事件が解決したらしく、張りつめていた空気は幾分か和らいでいた。ぞろぞろと人が出てくる中、安室くんが慌てて私の名前を呼んだ。立てるか、とさりげなく支えてくれる安室くんは本当に王子様みたいで、あの人とは違う優しさになんだか鼻の奥がツンとした。
へらりと笑う私を見て一瞬顔を顰めていたが、背後から真純ちゃんと蘭ちゃん、園子ちゃんの心配そうな声が聞こえてすぐにしかめっ面は消えた。
口々と聞こえる私を心配する声に、お礼を言う。蘭ちゃんと園子ちゃんはその後高木刑事の元へ呼ばれていった。真純ちゃんは私の目をしっかりと見つめているものの、何かを言い出せずに静かに拳を握る。安室くんはそんな真純ちゃんの姿を見て、ため息をつき、踵を返そうとするが「先に行って」と言うと渋々外で待っていると部屋を出てくれた。
「……なあ、聞いてもいいか?」
ようやく口を開いた真純ちゃんに、いいよ。と言えば、目線をそっと逸らされた。
「貴女はやっぱり、秀兄と……」
「助けてもらったの」
遮るように言うと真純ちゃんは顔をあげて悲しそうな表情で私を見た。
「……真純ちゃんのお兄さんに、助けてもらったの」
精一杯の笑顔で言っているつもりなのに、なぜかどんどん真純ちゃんの表情は泣きそうで。私今、どんな顔しているんだろうか。
ぎゅっと心臓あたりの布を握りしめると、明美ちゃんとライの姿が過ぎった。
ああ、もうこれ以上は、我慢できない。
タイミングよく震えた携帯電話をポケットから取り出すと、安室くんの名前。
ごめんね、そろそろ行かなきゃ。そう言ってそそくさと真純ちゃんの元から去った。あれ以上一緒に居たら、絶対泣いてた。
扉を開けると目の前には安室くんが壁に凭れて携帯を鳴らしていた。遅くなってごめんね、と言うと何も言わずに私の頭を撫でた。
びっくりして見上げると優しく笑う安室くんにひどく安心したのか、緊張が解けたのか、いろんな感情が混じった涙が零れる。
それでも、まだ。瞼の奥の面影は消えそうにない。
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