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2023/09/02  kngdm

李牧
オンリーあわせ短編と同ヒロイン その1









 たまには視察も必要かと思い、従者を数人引き連れて屋敷を出ることになった。
 屋敷の門をくぐった時から気づいていたが、時折感じる視線が鋭い。


「騒がしいわね」


 大通りに面しているわけではない屋敷付近ですら、何やら人だかりが出来ている。
 そしてやはり、私に向けられる視線は冷やかであった。


 行き交う人々の身なりは皆高くない。着の身着のままで荷台を引く姿を見るに、おそらく移民だろう。首都に移民が来るなど珍しいこともあるのだな。
 その一方で邯鄲から外へ向かう人々は騎馬ばかり。いよいよ穏やかではないことが起きているのだと察した。


 従者たちが人波に巻き込まれないよう、目を配る。皆、一様に行き交う人々を見つめていた。


「確かに、最近邯鄲の人の出入りが激しいですね」
「……」


 隣に控えた侍女の言葉に、一番後ろを歩いていた従者が顔を逸らした。
 確か李牧が連れて来た戦争孤児だっただろうか。彼のことは若いのによく働いている子だと認識していた。


「貴方、何か知ってるでしょ」


 踵を返し、少年の目の前に立ちはだかる。


「あ、あの……えっと……」
「李牧に口止めされてるんでしょうけど、知っているなら話しなさい」


 視線を彷徨わせていた少年は、肩を縮めるとおそるおそる口を開いた。


「ぎょ、鄴が攻められていると」
「あの鄴を!?」
「一体どこの国が!」


 少年の言葉に、侍女たちがわっと騒ぎだす。
 移民が来るのはそれが理由だとして、何故李牧が口封じをしたのか。そんなの、少し考えれば分かる。


「なるほどね」
「奥様?」
「秦が攻めてるってわけか」


 ぽつりと呟くと、少年の肩が大げさに揺れた。これはもう決定打とも言えるだろう。


「道理で視線が痛いわけだ」


 ため息を吐き出し、周囲を睨み返す。そそくさと人影が消えていく光景は、邯鄲に来たばかりの頃を彷彿とさせた。
 それを見た侍女たちが次々に息を巻く。


「しかし奥方様はもう長い時間を趙で過ごして居られます!」
「そうです! 敵視など見過ごせません!」


 侍女たちをなだめ、今日の外出は中止にした。
 少年や侍女たちを先に門へ押し込み、私はもう一度人影のあった場所へ振り返る。
 ひそひそと声をひそめて話す民衆たちを目に焼き付け、無言で屋敷の門をくぐった。


(大王様は、こんな程度じゃ済まなかったんだろう)


 後ろ盾もない敵国、どんな心地で過ごしていたのだろう。


 一方で私は李牧に従者を与えられ、何不自由ない生活をしている。
 似ているようで全く似ていない。


「私って、つくづく恵まれてるわ」


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