慶舎
いずれちゃんと短編にしたい。
いずれちゃんと短編にしたい。
※李牧に拾われた系侍女
「梓はいますか?」
「はいはー……李牧様! おかえりなさいませ!」
「ただいま帰りました」
「カイネさまも、慶舎さまも! おかえりなさいませ!」
「すみません、早速なのですが着替え終わったらすぐに王へ報告に向かいます」
「はい、かしこまりました。では皆さま、洗濯してお直しをしますので、いつものところにいれておいてくださいね」
「はい、かしこまりました。では皆さま、洗濯してお直しをしますので、いつものところにいれておいてくださいね」
「ああ、すまない」
「カイネさまのお召し物……裂けちゃってますね……頑張って直します!」
「よろしく頼む」
「はい! 勿論です」
「慶舎さまも、いつものところにお願いしますね」
「……ああ」
相変わらず、慶舎さまとはお話が続かないな。
私がはじめてお会いしたときは喋れなかったみたいだし、それから考えるとめちゃくちゃ今の環境ありがたいんだけど。
無言で何度囲碁で負かされたか分からないし。
「わ~、今回もぼろぼろになってるなあ……。新調しなきゃいけないかもなあ」
でも今回も皆さん無事に帰って来られてよかった!
「次は、慶舎さまの服っと」
「どうしても騎乗されるから擦れるところが破れちゃうのよね」
下履きと外套が今回もぼろぼろだなあ。外套継ぎはぎになりそう。
「……これを着て、慶舎さまは戦場をかけているんだよね」
私の知らない姿。
ずっと見ていた背中なのに、いつのまにか知らないことだらけになっちゃった。
外套の糸をほどけば、肩のところにしなびたお守りが顔を出した。
「失礼する」
「あ、慶舎さま!」
「あ、慶舎さま!」
「ちょうどお直しが終わりました! 外套が今回継ぎはぎだらけなので、もし新調されるようでしたら……」
「いや、このままでいい」
「そ、そうですか?」
「ああ。世話になったな」
「いえ! これが梓の仕事ですからね!」
「いや、このままでいい」
「そ、そうですか?」
「ああ。世話になったな」
「いえ! これが梓の仕事ですからね!」
はーぁ。慶舎さまかえっちゃうなあ。寂しい。
また背中を見送るだけ。私はこの邯鄲のお屋敷で皆さんをお待ちしているのが仕事。
「梓」
「ひえっ!? はい!?」
突然振り返られた慶舎さまに驚きすぎて変な声が出た。あわわ。なんだろう、何処かまだほつれているとか……?
「ほ、ほつれがありますか!?」
「いや」
「お前の針子はいつも完璧だ」
「あ、ありがとうございます……」
「あ、ありがとうございます……」
「だが、いつもの守り袋が入っていないぞ」
「……え」
「?」
口をひくつかせる私に、慶舎さまは首をかしげた。
「ご、ご存じだったんですか……?」
「ああ」
「お前の思いを背に、戦っているぞ」
小さく微笑まれた慶舎さまを見て、羞恥と久しぶり見た笑みが素敵で顔が熱くなるのがよくわかった。
たじたじになりつつも受け取った外套に、すぐさまいつものお守りを縫い付けた。
「慶舎さま~」
「なんだ、梓」
「そろそろ新しい服作りませんか?」
「愛着があられるのはとても良いのですが、どうも継ぎはぎが多くて……」
「愛着があられるのはとても良いのですが、どうも継ぎはぎが多くて……」
将軍になられたと聞いているので、身なりは整えておいた方が良いかと。
「……分かった」
「じゃ、採寸させていただきますね~」
わ~……慶舎さまが近い。
こんな距離で対面するの初めて服を作らせてもらった時以来では。
腕、背丈、股下……最後まで順番を先延ばしにしていたが、最後はやっぱり腰回り……。
「し、しつれーしまーす……」
まるで抱き着くみたいに腰に手を回す。李牧様もだけど、みなさん見た目よりがっしりとされているなあ。
巻き尺の交差するところに指でおさえ、慶舎さまから離れようとすると、頭に温かいぬくもり。
「けいしゃ、さま……?」
顔をあげると、ぽんぽんと頭を撫でている慶舎さまと目が合う。
「大きくなったな、と」
「お前も私も、もう子供ではないのだな」
急に寄せられた綺麗なお顔に、私はもう、動くことすらできなかった。
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