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2019/12/31  pkmn
 game

キバナとジョウトからきた研究者







「……おっきいなあ……」
「んなとこで口開けてぼーっとしてると人にぶつかんぞ」
「え、あ、すみません」
「観光客か?」
「いちおう……」
「一応?」

「私、遺跡調査で呼ばれたんです」
「へぇ」
「ナックルシティで待ち合わせなんですが、はやく着いちゃって、先に観光したいなあと」
「地元とは全然違う建築ですごく……すごく興奮してます!」

「本当に……うちとは全然違う歴史を歩んできたんでしょうね……!」
「……おー」

「此処ってお城なんですか?」
「古城を利用してるが今はポケモンジムになってるぞ」
「ガラルにもリーグがあるんですか?」
「おう!もうすぐ始まるぜ!」
「ならバッジ集めようかな……」

「お、経験者か?」
「一応……」
「また一応かよ」
「遠い昔の話なんで」

「うーん」
「強いポケモンを捕まえる必要も出てきそうですし挑戦したほうがいいかもですね……。
 ガラル地方、ほんとに見知らぬ土地なので」

「片手間で研究なんて出来んのか?」
「どうですかね? 手持ちは地元に置いてきたので一からなんですよ、いろいろと」

「ま、挑戦するならお前が来るのを待ってるぜ!」
「?」
「オレさまはキバナ。ナックルジムのジムリーダーだ!」





「キバナさん」
「あぁ? 試合中に話しかけるなんて余裕だな?」
「……そういう風に見えます?」

「私、昨日地元から一匹、どうしても今日戦わせたくて呼び戻したんですよ」
「……で?」
「そのユニフォームの柄、見覚えあるなぁって」

「昨日ようやく思い出したので慌てて呼んだんですよ?」
「おいで、カイリュー」

「……は?」

「うちのチャンピオン直々の技、お見せしますよ!」
「カイリュー! はかいこうせん!」





「ん? お前、まだ居たのか?」
「あ、キバナさん。お疲れ様です」
「おー」

「で、何してんだ?」
「出るに出れなくて、困ってます」
「は?」

「なんか出待ち居るんですよ」
「最初はキバナさんのファンかなーと思ってたんですけど、スタッフさんが言うにはどうも違うらしく?」
「そりゃあ、此処を突破できるやつは限られてるからな。お前に興味もあんだろ」

「今日も適当なカッコで来ちゃったのでほとぼりが冷めるのを待ってるんですよ」
「ブッ!!!!」

「後ろヤベェ!!!! ダンデの刺しゅう!!!!!」
「そのパーカーどこで買えるんだよ!!??どこで見つけた!!??」

「エンジンシティで買いましたよ。
 ガラルに来た日に肌寒くなったのでとりあえずで買ったんですけど、案外あったかいので重宝してるんです」
「そのうえマスクつけてんのが余計ダセェな」
「マスクは花粉症なんで許してください」

「あーーーーーーー、もう少しまともなカッコしてくればよかった」
「お前今まで服装どうしてたんだよ」
「試合するときはユニフォーム着るしいいかって気持ちで上下スエットにクソダサパーカーの時もありました」
「それ絶対ダンデの前で言うなよ?」
「言いませんよ」

「……」
「キバナさん?」
「じゃーこれでも着とけ」
「え? うわっ」

「似合ってんじゃねーか、さすがジョウト出身」
「……」
「おい、あからさまに不貞腐れんなよ」
「……これで不貞腐れないと思いました?」

「ぜっっっっったい炎上するじゃないですか!!!
 それならクソダサパーカー晒される方がマシです~~~~!!!!」

「あーうるせー、行くぞ」
「は!? ちょ、ま、腕、離してくださ……!」

案の定、炎上した。





「行くなよ」

掴まれた腕が、熱い。
座り込んだキバナさんは私を見上げた。
ヘアバンドから覗く目は少し潤んでいる気もする。

ダイマックス騒動が収束してから数日。
キバナさんからの電話に呼び出され、彼と会っていた。
八つ目のバッジを手に入れ、クソダサパーカーもといこっちで初めて買った服……ダンデさんの刺しゅうが背中にほどこされた黒いパーカーにひっつかんだ洗濯物の組み合わせでジムチャレンジにやって来た私。
まさか帰りに出待ちにあうとは思わず、適当なカッコで来た事をとても後悔していた。
ナックルジムを出るのにためらっていたところ、たまたま出会ったキバナさんに着せられたあのドラゴンパーカーのせいで大炎上した。いやもう、本当に炎上した。ネットで。

いまだに予想以上の反応が続き、さすがにキバナさんから謝罪の電話が入ったわけで。
その時に「まあ、もう人前に出ることはないと思うので」と言ったらキバナさんの様子が変わった。


元々、遺跡調査でソニアさんに呼ばれたのだ。
なんでこんな辺境の研究者をソニアさんが知っていたのかわからないが、はるばるジョウト地方からやってきた。
待ち合わせしていたナックルシティで一足先に観光していた時、出会ったのがキバナさんだった。

ジムに挑戦するのは調査に必要だったから。
ポケモン考古学は生態系の調査も必須だし、強いポケモンの巣穴に出入りすることも想定してジムに挑戦した。レベルの高いポケモンを捕まえて手持ちにするのも円滑に調査を進めるためだ。

地元でも十歳になったらジムチャレンジが当たり前なのでそれなりに旅もしたし、チャンピオンロードも挑戦した。
ワタルさんからはかいこうせんを教わったのも昔取った杵柄なのだ。
まさかあんなに興味を持たれるとは思わなったけれど。


私はいずれ、地元に帰りますよ。
キバナさんに電話でナックルジムに呼び出され、私は告げる。
ガラル地方の伝承に関する剣と盾、そしてそのポケモンの謎。
先日、それらがすべて解き明かされ、伝説のポケモンは新しいチャンピオンとその幼馴染の手元へ。
正しい伝承は、その目ですべてを見たソニアさんが文献や遺跡を踏まえてまとめあげた。
一昨日、献本をいただいたが、あとがきに私の名前が書いてあったのは嬉しかった。少ししか手伝えなかったのに。


そんなこんなで、私の遺跡調査も、ジムチャレンジも、すべて達成されていた。
チャンピオンロード、もといトーナメントは出場するつもりはなかった。バッジさえあればポケモンは言うことを聞いてくれるから。
昨日、久しぶりにワイルドエリアに行くと強そうなシャワーズに出会ったが、一発で捕まえることができた。バッジ様様だと思う。

ガラルの復興も少しずつ始まった今、私が此処にいる必要はない。
その旨を伝え、冒頭に戻る。

背の高いキバナさんを見下ろす機会なんてそうそうなく、上目遣いで見上げる青とも緑ともとれる不思議な色の瞳が私をまっすぐ捉える。
弱弱しいキバナさんを見るのが、初めてだった。

「行くな」これをどういう意味で捉えたらいいのかわからず、どきまぎしてしまう。
私の勘違いだったら。
それこそもうガラルには居られない。
憧れのドラゴン使いと同郷で、しかも知り合い。色々話を聞きたいこともあるかもしれない。

うまく呼吸ができない。
聞いてしまっていいのか。それはどういう意味ですか、と。
ぱくぱくと何度か口を開いては閉じ、開いては閉じる。
キバナさんの視線から、逃げられない。

「わ……!」

視線が外され、項垂れたキバナさんが勢いよく私の腕を引いた。
よろける私とは裏腹に、ベンチに座り込んでいたキバナさんは勢いで立ち上がり、私を抱き込んだ。
肩口に顔をうずめ、ぎゅうぎゅうを抱きしめてくるキバナさんに、顔に熱が集まる。

「返事は顔見りゃわかるぜ」


ああ、もう。
ソニアさんに言ったお別れの挨拶、撤回しないと。



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