カルデア日記7
二部四章の話 その1
「サーヴァント、ランサー。真名・カルナと言う。よろしく頼む」
「なんかここまで来るとインドと梓ちゃんの縁が相当強いとしか?」
「ダヴィンチちゃんまで……」
「先輩と梓さん、お二人とも召喚されたサーヴァントがインドの英雄なのは本当に幸運です!」
「うん……ひとまず気持ちを切り替える……」
「改めてよろしく……じゃない。よろしくお願いしますね、カルナさん」
「なぜ敬語なんだ?」
「え?」
「俺はお前を共に人理を守ったマスターとして認識しているぞ」
「あ……。そっか。ちゃんとカルデアに居るカルナの記憶もあるんだ」
「……北米とは、違うんだね」
「何か言ったか?」
「ううん!なんでもない!覚えてくれてるなら問題なし!よろしく、カルナ!」
「勿論だ。マスター」
ご都合主義なので座から召喚したカルナ≠カルデアのカルナ。
弊デアでは初期から居すぎて四章冒頭の感覚がつかめなかった。
「ね、ガネーシャさん」
「何ッスか?」
「ガネーシャさんって疑似サーヴァントなんだよね?」
「そうッスよ!マジ神様だから本当なら召喚できないところをなんだか色々あってボクが依り代になったッス!」
「じゃあ、依り代の貴女に聞くね?」
「は、はいッス……?」
「カルナのマスターだった?」
「どうして、そう思ったッスか?」
「なんとなく。ただ知り合いだったとは思えなくて」
「……イヤじゃないッスか?」
「ん?」
「ボクが……カルナさんと知り合いだったって」
「え?なんで?」
「梓さんは今、この世界でたった一人のカルナさんのマスターッスよ」
「んー。あんまり気にしたことないかなー?」
「カルデアにはね、カルナが別の世界で戦った聖杯大戦の記憶を持ってる英霊もいるの」
「それに私自身も聖杯大戦のあれそれにちょーっとだけ巻き込まれた事もあったし」
「あと……初めて一人でレイシフトした北米でも私と契約してないカルナと出会った事もあるし」
「だから私に気を使ったりはしないでね?」
「カルナの方がガネーシャさんを覚えてない見たいだから、ちょっと辛い
かもしれないけど」
「全然!辛くなんかないッスよ!むしろまた会えて……その……」
「じゃあ、せっかくの機会なんだし少しでも喜んで!まあ、状況が状況だけど……」
「あとね、ガネーシャさんじゃなくて貴女の名前も教えてくれる?」
私がFGO始めるきっかけの一人だったCCC信者から猛烈なアプローチを受けていたのでまさかここで出会えるとは感半端なかったガネーシャさん……
「マスター」
「……カルナ」
「眠れないのか?」
「うん」
「あのアルジュナが気になるか?」
「……」
「ねえ、カルナ」
「あのアルジュナは、黒なの?」
「……知っていたのか」
「前に、アルジュナの心の中を見ちゃって」
「自分の中の黒を認められなかったアルジュナが抑えられなくなったのかな」
「どういう経緯かはともかく、黒が表に出た結果だろう」
「悩むな、マスター」
「あれはお前が知るアルジュナではない」
「黒を胸に秘めつつも正しく居続けた男こそ、お前の信じるアルジュナだ」
「こうやってカルナに慰めてもらうの、二度目だね」
「そうだったか?」
「うん」
「ありがとう、カルナ」
「礼を言われるような事はしていない」
「さすが施しの英雄」
「おやすみ」
「ああ、おやすみ」
カルデア日記3・幕間2をプレイした日の話。
異聞帯でしか成立しえない姿をしたアルジュナさんを倒し、みんな身体も霊基も限界だった。
そんな中、ペペさんが私たちから離反した。
離反、と言うのはおかしいのかもしれない。元々は敵同士。利害が一致したから一緒にいただけなのだ。
とは言え、そこまで簡単に気持ちを切り替えられるわけもなく、混乱する中でもペペさんが次に出る行動を見定めようと眉をしかめた。
「立香ちゃん」
「梓さん……?」
ふいに名前を呼ばれ、振り返ると梓さんが一歩、また一歩と踏み出していた。
梓さんがインドで召喚したサーヴァントはさっきまでの戦いで完全に座へと消えた。
サーヴァントとは違い私たちはマスターだ。最前線に出てしまえばなんとももろい、たった二人しか居ない汎人類史の生命線。
なのにどうして、彼女は誰よりも前へと進んでいるのか。
「此処は私一人にやらせてくれない?」
追い風が、強く吹いた。
私たちを庇うように前へ出た梓さんの表情は髪で見えない。
「で、でも……梓さんのサーヴァントは……」
「うん。そうだね」
彼女はまっすぐペペさんを見つめている。
その目を逸らすことなく私の隣に居たマシュへと声をかけた。
「マシュちゃん!」
「は、はい!」
「召喚サークルをお願い」
梓さんは冷静な声で言う。このタイミングでの召喚となれば相手がいつ攻撃をしてくるかもわからない。危険だと言う所長やマシュの正論が飛び交う。
それでも、梓さんは振り返らず、言い訳もせず、ただまっすぐ前を捉えていた。
「この異聞帯を断ち切るのは、彼じゃないと」
梓さん越しに見えるペペさんの表情は相変わらず何を考えているのかわからない。ただうっすらと笑みが浮かんでいた。
「彼?そんな特定の一人を上手く召喚できるのかしら?」
「絶対にうまくいきます。そして必ず空想樹を伐採します、ペペさん」
強い口調で断言した梓さんにアシュヴァッターマンが鼻で笑い、無駄だと言う。
攻撃こそしてこないが、間違いなく誰も信じていないだろう。いくら梓さんがついているとは言え、この場で数多の英霊からたった一人を召喚する事が出来るなんて。
「素に鉄……
マシュが梓さんの真後ろに召喚サークルの設置した事を告げると、詠唱をはじめた。
詠唱を唱えきると見慣れた光の筋が三本浮かび上がる。この場でサーヴァントを呼び出された事は確定した。
次に現れたのはアーチャーの紋、さらに金色に光っている。敵味方関係なくその場の誰もが現れるサーヴァントに固唾を飲んだに違いない。
「サーヴァント、アーチャー。真名アルジュナ」
さっきまで戦っていた彼とは違う、本来の英雄。
一面の曼殊沙華に青い裏地が映えるマントを翻し、授かりの英雄は梓さんの隣へと並んだ。
「うそでしょ……」
「ムカつくぐらいうまくいきやがった」
さすがにペペさんも開いた口が塞がらないと言った様子だった。アシュヴァッターマンも悪態をついているが驚きを隠せていない。
それは何もクリプターだけではない。もちろん私たちカルデアサイドでさえもこの召喚には驚かざるを得なかった。
「アルジュナ」
「はい」
何も言わずとも二人の間では疎通が出来ているようだった。
お互い顔を見るわけでもなく、ただ目の前の空想樹へと視線は向けられていた。
「召喚してすぐで申し訳ないんだけど……」
「私は貴女のサーヴァントですから。存分にお使いください」
「……ありがとう」
息を一つつくと、梓さんの周りの空気が変わった気がした。
アルジュナさんが側に居るだけで、彼女はこんなにも強くなれるのか。
神に等しいアルジュナと、この異聞帯で初めて顔をあわせた時に見せた不安げな表情などまったく無かった。
「じゃあ、この輪廻を終わらせましょう」
目には見えない信頼関係で結ばれた二つの背中に、汎人類史の運命がのしかかった。