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2025/07/18  [PR]
 

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アルジュナ霊衣ネタ
※気持ちいつもより甘い





――温泉、行きたくないかい?
 ダ・ヴィンチちゃんの提案にうっかり乗ってしまった私達は今、微小特異点に来ている。
一見、日本の温泉街にも見える世界で、私はぼーっとしていた。
閻魔亭とは異なり、豪勢な建物ではあるが現実的な……昔見た映画に出てくる純和風の旅館の一室で、窓の外を眺めていた。
 広縁の椅子にもたれかかると、窓の外は雪が降り始めていた。
立香ちゃんとマシュちゃん、浴衣だけだったけど大丈夫かな……。はしゃいで出て行った若い二人を思い出して頬が緩む。
 今、この部屋には私一人しか居ない。一階にある客室は、すぐ隣に広がる和風庭園がよく見える。
相棒のアルジュナは立香ちゃんとマシュちゃんと探索に出ている。というか、保護者をお願いした。
私が部屋に残っているのは、和風庭園で雪遊び、もとい温泉を掘ろうとしているバニヤンちゃんたちの目の届く範囲に居るためである。雪がちらついても気にせず穴を掘っている様子を見るに、子供は風の子だなと思う。
バニヤンちゃんとナーサリーちゃんとジャックちゃんとジャンヌオルタリリィちゃんが穴を掘りつつも雪玉を投げ合ったり好きなように遊んでいるのを眺めていると、バニヤンちゃんがこっちを見て手を振っている。気付いたジャックちゃんたちも各々手を振ってくれるので、私も控えめに振り返した。
 私から関心がそれると、気付かれないように小さく息を吐き出す。
思い出すのは私と別行動になったせいでとても不貞腐れていたアルジュナのことである。
なんというか、最近――アルジュナが私に優しすぎる。気を遣いすぎているのではないかと思い、今回彼を別行動にさせたのだ。
 アイアイエー島での一件で、アルジュナは立香ちゃんとも随分打ち解けた。モニター越しに見ていた私でもわかる。私じゃなくても彼はうまくやっていけるのだ。
たまたま先に召喚したのが私だっただけで、立香ちゃんがマスターだった未来だってありえたかもしれない。
 まあ、別にそれに嫉妬しているとか、そういうのではない。単純に私が何かあった時は立香ちゃんを頼ってほしいのだ。私が死ねば契約は無かったことになるが、死なない程度に生かされることだってあるだろう。私だってそうなった時に意思があればその手段を選ぶ。
 そうならないように、立香ちゃん一人の両肩に人類史がのしかからないように、私も精一杯生きるつもりだが。なんと言うか、なんだろう。やっぱり未来が怖いだけかもしれない。アルジュナには、私が居なくても笑っていてほしい。
 ……そういえば、久しぶりに一人になった気がする。しんしんと降る雪の奥ではしゃぐ子供たちを眺めていると、気付けば瞼を閉じていた。




 ずっとそわそわしている授かりの英雄に、私は声をかける。
 先日発生した小さな特異点は遊んでいれば消えると言う、平和的解決が求められる特異点だった。
 日本の温泉街――坂沿いに店や旅館の並ぶテンプレ的なイメージ通りの特異点を、私とマシュと、アルジュナさんの三人で歩いていた。
「ほら、アルジュナさんも!」
 露店を見ている私とマシュから少し離れ、眉を顰めていたアルジュナさんの肩を押す。
車輪のついた店舗兼商品棚に渋々目を向けたアルジュナさんが困った笑みを浮かべていた。
「いえ、私は……」
「もー! 梓さんのこと気にしすぎじゃない!?」
「先輩、言葉が少しばかりきついかと……」
「わざとに決まってるじゃん! くよくよしすぎ!」
 アイアイエー島以来、アルジュナさんと少しだけ距離が近くなったと思う。でもそれはあくまで梓さんと言うマスターがあっての絆だ。おそらく私が召喚した場合はもっと違う関係性になっていただろう。
 意外と天然ボケだとわかったが、あのボケが出るのも気を許した人が傍にいる時のみ。アイアイエー島はイアソンやオリオンっていうツッコミが居たから、立場的にああなったんだと思う。
「そんなに気になるならお土産でも買ってあげなよ」
「土産?」
「そう。梓さんだってホントは引きこもってばっかりは嫌だと思うし。
 一緒に出掛けたいなら梓さんを引きずり出すような面白いもの、持って帰ったらいいじゃん」
 普段は自負の通り、梓さんの最高のサーヴァントだと思う。
その信頼関係は、限られたリソースである聖杯や指令紋章の数が証明している。あとインド異聞帯では運命力も見せつけられた。私にマシュが居るように、梓さんにはアルジュナさんがいつも傍に居た。
「せ、先輩のおっしゃることも一理ありますよ! バニヤンさんたちを気にかけていらっしゃるのは本心だと思いますので……」
 旅館の庭で温泉を掘り当てようとしているサーヴァントのほとんどが梓さんが召喚したサーヴァントだ。しかもみんな見た目と精神年齢が幼い。放っておくことが出来ないのだと思う。ついでに私のサンタリリィまで面倒を見てもらっているのだから、頭が上がらない。
「土産……ですか」
 ようやくアルジュナさんの表情に光が差した。顎に手を添えて考える素振りをしていた彼が手を伸ばしたのは、日本の家庭でよく見かけるビニールのアヒルだった。
 アルジュナさんがふふ、と小さく笑ったのを、私もマシュも見逃さなかった。マシュと互いに顔を合わせてきょとんとしていると、アルジュナさんが口を開いた。
「マスターが以前、湖でアヒルを見かけた時に”アヒル隊長だ!“と言っていたのですが……。これのことでしょうか?」
 さっきまでの険しい目つきはなんだったのか。眉尻の下がった朗らかな笑みが私とマシュに向けられる。
梓さんもアルジュナさんのことになるとちょっと暴走気味のところがあるが、こっちも大概だ。そんな顔、初めて見たわと声に出しそうになるのを堪えた。
「そうそう。日本の家庭ではよく見るよ。アヒル隊長って呼ぶのはテレビ番組の影響だと思うけど」
「湯船に浮かべるんですよね」
「うん。ただ浮かべるだけ。私の家にも昔はあったよ」
 マシュの言葉に頷き、一般家庭でよくみる黄色いアヒルの説明を補足した。
「では、これにします」
 端正な顔の男性には釣り合わない、チープな子供のおもちゃが手に握られている。普段のアルジュナさんなら無表情でアヒル隊長とは無縁だろうが、今の綻ぶ笑みを浮かべたアルジュナさんは「似合わない」とばっさり切ることができないほど、雰囲気がとにかく穏やかだった。
梓さんから授けられたお小遣いの入ったがま口を取り出して買い物をする姿は、なんだか初めてのおつかいを見ている気持ちになった……とは口が裂けても言えない。
 なんだかんだで露店を回っては色々買い物をして、アルジュナさんは梓さんへのお土産を沢山買っていた。上機嫌になったアルジュナさんが今にも鼻歌を歌い出しそうな軽快なステップをくりだした矢先、猿の群れが私たちを襲った。
「ほぉ、猿とは。自軍の象徴でもある神聖な動物に矢を向けるのは心苦しいですが……」
 花が飛んでそうな穏やかな雰囲気に亀裂の入る。
お土産の入った袋を私に預けると、アルジュナさんは弓を構えた。
「では……サクッと滅ぼします」
 弓を構える腕に力がこもり、宝具展開の詠唱を始める。吹き込む風に足を取られて転びそうになったところを、マシュに救われた。流石に唐突やしないかと思ったが、口元を歪めて猿を見つめるアルジュナさんの言葉に、なんだかにやけてしまった。
「やることがあるので……片付けます!」
 いや、でも待って? アルジュナさんの宝具って山吹き飛ぶんじゃなかったっけ?
「いくら急いで梓さんのところに帰りたいからって、一帯を焼け野原にするのはやめてくれ!」とマシュの腕の中で思わず絶叫した。




 猿だけどうにか上手く追い払ったアルジュナさんと宿に戻ると、バニヤンちゃんたちが「しー」と人差し指を立てて私たちを牽制した。部屋に戻ってきたと言うことは、無事に温泉は掘れたのか気になるところだが、彼女たちの視線の先に目を向ける。
 旅館にある、あの椅子があるスペース――広縁と言うらしい――で窓に身体を預けて梓さんが眠っていた。
 窓は結露していて少し濡れている。それに窓際は隙間風が入って寒いはずだ。アルジュナさんに声をかけようとしたが、既に彼の方が先に動いていた。
「マスター、冷えますよ」
 なんと、穏やかな声だろう。私たちだけではない、バニヤンちゃんたちですら目を丸くしていた。
「アルジュナ、そんなお母さんみたいな優しい話し方もできるんだ」とジャックちゃんがぽつりとつぶやいていたが、私も思った。
 アルジュナさんが自身の着ていた羽織を肩にかけると、寝ぼけまなこの梓さんが目を覚ました。
「んー? アルジュナ?」
「はい」
「楽しかった?」
「ええ、お土産も買ってきましたよ」
「そっかぁ、楽しかったか~」
 起き抜けでふにゃふにゃの梓さんがへにゃりと笑う。一瞬、驚いた表情をしていたが、アルジュナさんはすぐに優しい視線を向けて微笑んだ。
「傍に居りますゆえ、まだ寝ていてもかまいませんよ」
「うー」
 アルジュナさんが梓さんの頭をやわく撫でると、梓さんはアルジュナさんの胸にすり寄って夢の国へとまた旅立った。きっと寝ぼけていて私たちのことなど見えていなかったのだろう。私たちが見ていたと知ったら発叫してノウムカルデアを走り始めるかもしれない。
 おませさんな子供たちに向かって、私は口を開いた。
「いい? さっきの梓さんのことは他言無用だからね? 羞恥で逃げだすかもしれないから」
「わかっているのだわ! マスターは意外と甘えんぼさんってことも誰にも話さないわ!」
 ナーサリーちゃんが言うと、各々同意の言葉を紡いだ。
アルジュナはそんな子供たちを見て微笑むと、梓さんをひょいと抱きかかえて寝室へと消えて行った。その後ろ姿を眺めて、ぼんやりと考える。
「……ねえ、マシュ」
「なんでしょう、先輩」
「私、ずっと梓さんとアルジュナさんって相棒として相互理解してるのかなって思ってたんだけど……」
 脳裏に焼き付いたさっきのアルジュナさんの笑顔に、言葉が詰まった。「先輩?」とマシュの心配そうな声に、大きく息を吐き出した。
「アルジュナさんって、梓さんのこと……どう思ってるんだろうって」
「それは……」
 マシュが口を開くと同時に、梓さんを寝室まで運んだアルジュナさんが戻ってきた。
これ以上の話は無しだ。またいつかの機会に。マシュにアイコンタクトをすると、彼女も強く頷いた。
 連れて帰ってきてしまった猿と戯れる子供たちを見つめて、「そういえばこれ、どう弁解しよう」と冷や汗が背中を伝った。頼むからアルジュナさん、うまく梓さんを丸めてください。




「おはようございます、マスター」
「あ、あれ……私……」
「バニヤンたちを見てる間に眠ってしまわれたのですよ」
「アルジュナが運んでくれたの?」
「ええ、まあ」
「あー……。ごめんね、ありがとう」
「あと、羽織も返すね。寒かったでしょ?」
「お気になさらず。それより、マスター」
「なに?」
「お土産です」
「……アヒル隊長?」
「ええ、以前マスターが風呂に浮かべると言っていたのを思い出しまして」
「久しぶりに見たな~」
「ちなみに、おそろいです」
「おそろ……? え、アルジュナもお風呂に持って行く気!?」
「そのつもりですが?」
「あ、はい……」
「(アルジュナってほんと、たまにめちゃくちゃ天然になるけど、なんていうか、下手に止められないんだよねえ……。キラキラした目でアヒル隊長見せられて「やめなよ」とは言えない……)」
「てか、その猿は……?」
「聞いてくださいマスター! 彼はリツカたちと露店を見ていた時に襲撃してきた群れの一匹なのですが、全ての技をかわし、あまつさえ私の肩に飛び乗ってきたのです!」
「お、おう?」
「時代が違えばハヌマーンだったかもしれません! カルデアに連れて帰ってもいいですか!?」
「ダメに決まってるでしょ」
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